2022年の干支、寅バージョンの〈招き猫〉と、季節や行事に合わせてつくる〈だるま鈴〉
連載|日常を楽しくする、大分の手仕事

鳩笛、福獅子、だるま鈴。
愛され続ける土人形。
土人形作家・宮脇弘至さん | Page 2

Posted 2022.05.31
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手の中でつくるから、表情もフォルムも愛おしい。

寅バージョンの〈招き猫〉と〈だるま鈴〉
今年の干支、寅バージョンの〈招き猫〉(右・完売)と、季節や行事に合わせてつくる〈だるま鈴〉(左)。身長4~5センチの〈だるま鈴〉は全部で50種類ほどあり、値段はひとつ600~700円から。「みんなにかわいがってもらいたいから、欲しいと思った人がすぐ買える値段にしています」と宮脇さん。

「目指しているものですか? 答えはひとつ、愛される人形です」。さらりとそう話す宮脇さん。

「僕はずっとビートルズが好きで憧れているんだけれど、ビートルズがなぜ世界一なのかと言えば、アイドルだからでしょう? どんなに演奏がうまくても、愛される存在じゃないとナンバーワンになれない。僕も、自分が有名になりたいとかお金が欲しいのではなくて、自分がかわいいと思ってつくる人形が、みんなのアイドルになってくれたらと思っているんです」

決めているのは、最初から最後までひとりで手がけること。「石膏で形をつくり、土を詰めて型取りし、細かい部分を削ったり穴を開けたりしてから乾燥させて窯で焼く。焼成したものにひとつずつ色を塗って顔や模様を描いて……ひとつできあがるまでに40日以上。ものすごく手間がかかりますが、分業にしてしまったら、僕がかわいいと思う人形とはズレが生まれる気がするんです」

たくさん並べられた石膏型
石膏型づくりも自分で。内側に土を沿わせて型取りしたものをふたつ合わせることで、中が空洞の人形になります。
乾燥中の〈鳩笛〉
型取りし、削ったり穴を開けたりしたら、木の箱に並べて充分に乾燥させます。「この状態がかわいいでしょう。均一に乾かさないとひびが入ってしまうから、時々コロコロ転がして、わざと倒しておいたりするんです」

「自分の手で握った感覚で人形をつくりたいんです」という宮脇さんに、絵付けの作業を見せてもらいます。素焼きした人形を左手で握り、右手の筆を丁寧に動かして……筆運びは慎重ですが、ふと宮脇さんの顔を見ると、ちょっぴり微笑んでる?

「こうやって、手の中で顔を描いている時点で、もう愛着が湧いちゃうんだよね。正面からだけじゃなく、横から見たところも後ろから見た姿も全部かわいくしてあげたいから、大変だけど楽しい」

〈福獅子〉に絵付けする作業
〈福獅子〉に絵付け中の宮脇さん。「福獅子もそうですが、できるだけペアでつくりたい。親子とか雄雌とか阿吽とか。ひとりだと寂しいじゃない?」
こぶしを握る宮脇さん
「手のひらでギュッと握れるくらいの小さい人形が好きです」

さて、そうやってつくられたひとつが〈南蛮鈴〉という名の土人形。モチーフとなっているのは、15~16世紀の日本に西洋文化を伝えたポルトガルやスペインの人々です。胴体を持って振ると、カラカラカランと光が転がるような澄んだ音。そう言えば、宮脇さんがつくる郷土玩具には、音が鳴るものが多いようです。

人の姿をモチーフにした〈南蛮鈴〉
ポルトガルやスペインの人々の姿をモチーフにした〈南蛮鈴〉。それぞれ高さ約12×幅約7×奥行き約6.5センチ・各1320円。

「鈴や笛などの音が鳴るものは、昔から魔除けや神さまを呼ぶものと言われてきたんですよね。だから音にも神経を使う。粘土の厚さも大事だし、焼くときの温度も大切。それに、ちょっとでもひびが入ったらいい音は響きません」

ベル型の服を着た南蛮鈴
〈南蛮鈴〉は、ふくらみのあるベル型の服が特徴。軽く振るだけでやさしい音。手の中で鳴っている感じが心地よく、いつまでも鳴らしていたくなります。
底側から見た南蛮鈴
「底が開いているから音がひろがる。これが鈴を鳴らすのに一番いい形です」。どこを厚く、どこを薄くするかによって音も変わるそう。服の中に入れる鈴玉も自分でつくります。

いかにいい音を鳴らせるか、実験の繰り返しだと宮脇さんは話します。

「音にしろ形にしろ、僕は学校できちんと学んだわけではないので、一番いいところを自分で探し続けて見つけるしかない。うまくいかんなあと思いながら、それでも一生懸命続けていると、ある日、突然ひらめいて、できなかったことが急にできるようになる。“こうすればいいんだ!”って」


制作作業中の宮脇弘至さん
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