
大自然×圧巻アート×パワースポット寺社。
宇賀なつみが案内する国東半島の神秘旅
「大分県にはよく来ているのに、国東(くにさき)半島はじっくり旅したことがないんですよ」と話す宇賀なつみさん。
大分県の空の玄関口・国東半島は、宇佐神宮を中心に神道と仏教が融合した「神仏習合(しんぶつしゅうごう)文化」が息づく祈りの地。近年では数多くのアーティストが移住したり、芸術祭が開催されたりと、“アートのまち”としても注目を集めています。
今回は、自然と精神性が交差する神秘的な国東半島の開運旅へと出かけました。
アントニー・ゴームリーの
鉄の像に会いに行く
最初に向かったのは、大分空港から車で約50分、国東市国見町の「千燈岳(せんとうだけ)」。この中腹にある切り立った崖には、2014年の国東半島芸術祭で設置された人体彫刻作品『ANOTHER TIME XX』が佇んでいます。

国東半島芸術祭では、国内外から25組以上の現代美術作家が参加。この場所は、芸術祭の作品のなかでも特にシンボリックな、アントニー・ゴームリーの作品の会場「千燈プロジェクト」になりました。


「身長191センチ、体重629キロ。鉄の像はこんなに大きいんですね」とボードに目を留める宇賀さん。芸術祭当時の情報から、これから見に行く作品への期待感が高まります。

千燈岳は比較的登りやすい登山道ではありますが、岩の上を歩く所や階段が続くので、歩きやすい靴と服装がベスト。両手を空けて登ると安心です。

国内外の海や山と、さまざまな場所を旅している宇賀さんは、山道も足取り軽やか。

アントニー・ゴームリーは、ロンドン出身の、身体と空間の関係性を探る作品で世界的に知られる彫刻家。2013年に国東を訪れ、現地を歩き、張り出した岩場に自身をかたどった像を設置する構想を描きました。

登り始めて約15分、岩場の先端にまるで誰かが立っているかのような気配。「いました!」と鉄の像を見つけて声を挙げる宇賀さん。

崖の上に佇む像の傍らで、一面に広がる海景に思わず「わあ……!」と感嘆の声。静けさに包まれた国東の山中に、宇賀さんの感動がそっと響きます。


アントニー・ゴームリーはこの地を訪れたとき、奈良時代から続く国東半島独自の山岳仏教文化「六郷満山(ろくごうまんざん)」(※修行僧が険しい山道を巡り、神仏習合の祈りを捧げた信仰)に強く惹かれました。
実際にその修行の道を歩き、その精神性に感銘を受け、ここを設置場所に選んだといいます。

この像の設置は、不動茶屋からワイヤーを張っての運搬が必要だったとのこと。シイタケ農家や工務店の方など、地元の協力によって実現したという背景も、アートと地域のつながりを感じさせます。

山岳宗教と八幡信仰が融合した六郷満山文化が色濃く残る国東半島。作品がある場所も修験道の一部であるため、険しい岩山を登る登山道になっています。

心地よい風と眼下に広がる景色が、歩いてきた道のりをやさしく讃えてくれるようです。「アート作品に出合うまでのプロセスも体験の一部ですね。ごほうびのような絶景でした」(宇賀さん)
帰りに立ち寄ったのは、登山口からほど近い「旧千燈寺跡」。

六郷満山文化を開いたという仁聞菩薩(にんもんぼさつ)が最期を迎えたと伝えられる場所で、かつては“西の高野山”と呼ばれていました。



苔むした参道の先にある、今は姿なき旧千燈寺跡に佇む仁王像。レリーフ状の一枚岩を浮き彫りにした、国東半島にある仁王像のなかでも珍しい形です。護摩堂のないこの場所を、今でもこの仁王たちが守っています。

アートを巡り、祈りの地を歩く。国東半島でしか味わえない静けさとパワーに満ちた時間がここには流れています。