高山活版社で使われる活字が並んでいる
連載|つづく、つなぐ、大分のなりわい

凹凸の質感にインクのかすれ、
手作業でしか生み出せない印刷物。
〈高山活版社〉が考える「これからの印刷」

Posted 2025.06.25
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創業から115年。
大分市の発展とともに歩んできた印刷会社

JR大分駅から車で約10分。すぐそばに大分川が流れ、のどかな雰囲気が漂う場所に〈高山活版社〉のオフィス兼工場はあります。

〈高山活版社〉のオフィス兼工場の外観
緑で覆われた土手が続く大分川の景色
土手からの眺め。ゆっくりと時間が流れていくよう。

1910年に創業した老舗の印刷会社である〈高山活版社〉。一度は技術の継承が途切れた“活版印刷”を11年前に復活させたことで、クリエイターの間で話題を呼ぶことに。活版印刷とは、活字を組み合わせてつくった凸状の版に圧力をかけて、紙にインクを転写する印刷方法のこと。

デジタル印刷が主流の今、時代の流れに抗いながらも、手作業でしか生み出せない魅力を伝えるため、さまざまな取り組みに励んでいます。

毛糸の束のイラストが印刷されたカード
活版印刷は凹凸の手触りやインクのかすれ具合など、ほかの印刷方法では出せない質感が魅力です。

私たちを迎えてくれたのは、6代目代表取締役の高山英一郎さん。案内された2階の展示室には、これまで〈高山活版社〉が歩んできた長い歴史を、実際に手がけてきた制作物とともにアーカイブした空間が広がっています。

制作物や資料が並ぶ〈高山活版社〉の展示室
2023年に展示室をオープン。テーマに沿って展示された資料や制作物から、〈高山活版社〉が歩んできた軌跡をたどることができます。
極薄の半透明の紙にうすく柄や文字が印刷された包装紙

この展示室をつくったきっかけは、大分県が2022年から開始した、県内企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)の取り組みを支援する「おおいたDX共創促進事業」(通称「湧く沸くDXおおいた」※現在はこの事業はありません)へ参加したことでした。

「コロナ禍に『湧く沸くDX』を活用して自社のウェブサイトを制作するにあたり、ミッションやステイトメント(活動方針宣言)をつくったんです。SNSでその告知をするだけでは誰も見てくれないだろうと思ったので、実際に会社に来てもらおうと考え、このスペースをつくりました」

高山活版社代表取締役の高山英一郎さん
〈高山活版社〉のミッションである「情を報(しら)せる。情の緒をたぐる」に込めた想いを説明する高山さん。「古くから続いている、名刺や伝票など情報を正しく伝えるための印刷物づくりに加えて、活版印刷の復活によってクリエイターとの仕事が増えたことから、情報も情緒(想い)も伝わる印刷物をつくっていきたいと思っています」

これまで手がけてきたものを“人の営みに寄り添う文具”と定義して、構成された展示の第1章では、〈高山活版社〉の歴史が大分県の歴史とともに紹介されています。

「この表は、自分たちでわかる限り書き出していったり、ヒアリングして調べたりして、つくり上げたもの。その作業を進めるにつれてわかっていったのが、大分市の発展とともに〈高山活版社〉も発展していき、今もなお変わらず続いているということです」

展示室に展示されている高山活版社の年表
初代の高山英明さんは1929年、第4代目大分市長にも就任。

創業当時、印刷設備が一貫して整っていた環境は、大分市内で貴重だったことから、官公庁や議会の印刷物などを一手に請け負っていたと話す高山さん。また、それぞれに研究テーマを持っていた2代目と3代目が、地元の人たちとつくった文芸誌『あづさ』を自社で印刷して、発行していたといいます。

その後、第二次世界大戦によって疎開させた紙や活版印刷機が全滅し、社屋だけが残った状態から復興させるため奔走。さらに時が進むと、活版印刷からオフセット印刷が主流になり事業転換を図りました。

こうして一度は途絶えてしまった〈高山活版社〉での活版印刷の技術ですが、復活に至ったのは、こんな理由がありました。

展示室内の仕事風景を解説したパネルを指差す高山さん
〈高山活版社〉の仕事の風景を紹介する高山さん。

「これからの時代、印刷会社が生き残っていくためには何か踏み出さなければという想いで、2014年に活版印刷を再び手がけることにしました。1979年の社屋移転の際に活版印刷の機械や道具はすべて手放していたのですが、5代目にあたる父が必要な機材を買い戻したんです。

その後、勉強会で知り合ったデザイナーさんにそのことをお話したら、『見てみたいです!』って会社まで来てくれて、とても喜んでくれたんですね。そこから大分県のデザイナーさんたちの間で広まって、県外で活動しているクリエイターさんたちからも依頼をいただくまでになりました」

今では、依頼人立ち合いのもと印刷の仕上がりを確認・調整する〈ともにつくる〉というサービスも始め、クリエイターの間で評判になっています。

「持ち帰りOK」と印刷されたフライヤー
コロナ禍にデザイナーさんとテイクアウトOKを知らせるフライヤーをつくり、商工会議所に出向いて配布してもらう取り組みも自主的に行っていたといいます。

ドイツ製の活版印刷機についているエンブレム
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