〈タカヒコアグロビジネス〉で栽培される温泉パプリカ
連載|つづく、つなぐ、大分のなりわい

温泉を活用した“温泉パプリカ”で成功。
大分県〈タカヒコアグロビジネス
(愛彩ファーム九重)〉が実践する
持続可能なスマート農業

Posted 2025.11.21
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プラント建設業から農業に新規参入。
大地の恵みを生かしてつくる〈温泉パプリカ〉

山々に囲まれた自然豊かな玖珠郡九重町(くすぐんここのえまち)で、若い世代からベテラン世代までがいきいきと働いている大規模農業企業があります。それが、2013年に設立された〈タカヒコアグロビジネス(愛彩ファーム九重)〉。

“おんせん県おおいた”ならではの、温泉(地熱)を活用した温室で、パプリカやトマトの栽培からスタートし、現在はピーマンや白ネギ、原木しいたけも栽培。昨年は地元の経営者から平飼いの養鶏事業を承継するなど、事業や栽培品目を広げているのですが、驚くのはその規模です。最初に立ち上げたトマトとパプリカのガラス温室は、なんと3万2千平米。

「規模感がぶっ飛んでますよね」と笑うのは、タカヒコアグロビジネスの取締役、大久保翔太さん。

パプリカを収穫する〈タカヒコアグロビジネス〉の大久保翔太さん
親会社の建設会社から〈タカヒコアグロビジネス〉の立ち上げに携わり、パプリカ栽培も一から勉強したという大久保翔太さん。
広々としたパプリカ栽培のハウス内
ICTを積極的に活用した最先端の農業を実践した、パプリカ栽培のハウス。ハウスがある場所は標高700メートルで、冬はマイナス10度を下回りますが、温泉を活用したヒーティングパイプが張り巡らされたハウス内は、20度ほどに保たれています。

「私たちはもともと、農業のプロ集団ではないんです」

タカヒコアグロビジネスは、プラント工事などを手がける建設会社〈タカフジ〉が起こした農業法人。「自然が豊かな大分県で続いてきた魅力ある農業を衰退させてはいけない」という社長の想いから、自社の技術や設備を生かした農業経営に乗り出しました。

燃料費の高騰が農業経営を逼迫させているなかで、目を向けたのが再生可能エネルギー。太陽光や風力も構想にあったそうですが、「大分県に豊富にある温泉水や温泉熱が使えるのでは?」と、自社で暖房設備の研究・開発を始めます。

そして完成したのが、温泉の熱と蒸気で温めた水をハウス内のパイプに通して室内を温める「温泉熱利用型の農業用熱交換システム」。現在ハウス内を暖める暖房は、化石燃料(A重油)の使用はゼロ。CO2も排出しない持続可能なシステムで、特許も取得しています。

ハウスのすぐ横で立ち昇る温泉水の蒸気
もともとは段々畑だったという広大な敷地内には、2か所の温泉井戸から豊富な蒸気と温泉水が自噴。この蒸気と温泉水を活用して熱交換を行います。
敷地内に設置された大型の熱交換システム
大久保さんが「これがうちの心臓」と話す、蒸気と温泉水を活用した熱交換システム。温泉を持つ多くの自治体が興味を持ち、毎年視察に訪れます。最近は台湾からも視察に訪れたそう。

この熱交換システムを利用したのが、広大なパプリカハウス。桁外れの規模ですが、「事業計画をしっかり立てないと、農業ってやっぱりうまくいかないんです」と、大久保さん。

敷地内に設けられた地熱発電所
敷地内には地熱の発電所も。収益が不安定な農業と、地熱発電の売電、CO2削減により得られるカーボンクレジットを掛け合わせた、ハイブリッドな経営を実践。

ICTなどを活用したスマート農業を実践しながら、農薬も必要最低限しか使用せず栽培しています。

「僕には子どもが4人いますが、きれいでも農薬がたくさんかかった野菜を食べさせたいとは思わない。子どもには、形は不揃いかもしれないけど、できるだけ農薬を使っていない本当にいいものを食べさせたい。そこも突き詰めたいんです」

ハウス内で育っているパプリカ
野菜に与える水も、ハウスの外のタンクに溜まった3000トンの雨水を紫外線殺菌して利用。快適な環境のなかで、すくすくパプリカが育っています。
収穫カゴに入った黄色が鮮やかなパプリカ
こだわりの栽培方法で育てた、肉厚で栄養価も高いパプリカ。その味と品質が、県内外のレストランシェフにも愛されています。

ハウス内で作業する2名のスタッフ
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