ハウス内で作業する〈タカヒコアグロビジネス〉の2人の女性スタッフ
連載|つづく、つなぐ、大分のなりわい

温泉を活用した“温泉パプリカ”で成功。
大分県〈タカヒコアグロビジネス
(愛彩ファーム九重)〉が実践する
持続可能なスマート農業 | Page 2

Posted 2025.11.21
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働きやすい環境を整え、新しい農業へ

広大なパプリカハウスでは、女性が活躍中。なかでも多いのが、地元に住む子育て世代です。その理由のひとつが、休みの取りやすさ。「天候に左右されやすい」という農業の不安定さを逆手に取り、学校の行事や子どもの体調不良といった突発的な出来事にも柔軟に対応したところ、就業希望者が口コミで増えていったのだそう。

「農業の仕事はただでさえ不安定なのに、シフトだけがっちり決めても意味がないと思ったんですよ。農業だから急にひとり休んでもなんとかなるんです」と大久保さん。ハウスの中では、子育て世代や海外からの研修生など、20代~80代までが元気に働いています。

ハウス内で作業をする2名の女性スタッフさん
パプリカ栽培に携わるのは、ほとんどが女性。当初、大久保さんを含め数人で立ち上げたタカヒコアグロビジネスには、現在約40名のスタッフが在籍しています。
高所作業車に乗り収穫をするスタッフさん
パプリカの木は上に高く伸びていきます。施設園芸先進国であるオランダの栽培法を取り入れ、収穫は専用の高所作業車で。これなら女性でも無理なく作業できます。

環境への影響や栽培方法に加え、当初からこだわっているのが、中間業者などを通さず、取引先へ直接出荷すること。これまでの農業は、自分たちの育てた作物を市場などに出荷するのが一般的。「最終的な販売価格を農家が知らない」という“当たり前”に疑問を感じた大久保さんは、「エンドユーザーにしっかり金額を決めて売っていく」ことに。

販路の開拓や交渉に手間はかかりますが、販売者とコミュニケーションを取ることも、農業にとって欠かせない仕事だと実感しています。

「人と会うことってすごく大事。話したうえでお客さんが欲しがるようなものをつくるからこそ、付加価値がつくんです。直接『おいしかったよ』と言ってもらえれば、自分たちの価値にもつながります」

パプリカの箱詰めや発送準備の様子
選別作業から発送までを自社で行うのも特徴のひとつ。「自分たちでできることは、自分たちでやりたい」と、一部県内の出荷先には、農場のスタッフが自ら配送。
サイズや色ごとにパプリカを選別中
パプリカは数種類を栽培。形ではなく、規定の重さごとに選別し、ひとつずつ包装します。
個包装された3色のパプリカ
色ごとに個包装され、〈温泉パプリカ〉として全国に出荷されています。

農業界では“異端”とも捉えられる取り組みですが、ここで得た知識や経験は、地元の農家の方々にも惜しみなく伝えているそう。地元の方との関わりも増えるなかで、九重町や大分県の振興も考えるようになっていったといいます。

大久保さんは、「農業から始めて、みんなとどうつながっていくかを考えていたら、いつの間にか、九重町と大分県をどうやって盛り上げるかに関わっていた」と笑います。

「子どもたちが社会に出たときに、ここで体験したことが生きてくれれば」という想いと、「生まれた縁はいつかつながる」という考えから、小学生から大学生まで、農場見学や体験なども積極的に受け入れています。そして地元の子どもたちには、「大学生になったらアルバイトに来て!」と、伝えているのだとか。

「『地元にバイトがあるから、長期休みに帰って来られる』という子が多いんです。人が集う場所でありたいとも思っています」

パプリカの出荷箱が高く積まれている
温泉パプリカは九州だけでなく全国へ出荷され、会員制の倉庫型量販店〈コストコ〉でも販売されています。

収穫されたばかりの〈寺床の自然卵〉
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