大分県の隠れた日本一!?
推しを選ぶ“総選挙”まで行われた
国宝臼杵石仏の魅力をお届け
温泉の湧出量、かぼすの生産量、建造物の指定有形文化財数……などなど、たくさんの日本一を持つ大分県。実は「磨崖仏(まがいぶつ)」の日本一でもあるって知っていましたか?
磨崖仏とは、平安時代後期から鎌倉時代にかけて盛んにつくられたとされる、岩盤などに直接彫られた仏像のこと。県内に約400体あり、その数はなんと全国の約6〜7割を占めています。
大分県に多い理由としては、約9万年前に起きた阿蘇山大噴火の火砕流が冷えてできた地層が柔らかく仏像を掘るのに適していたこと、国東半島をはじめ県内各地に仏教文化が栄えていたことなどが考えられるそう。
なかでも有名なのが、臼杵市(うすきし)にある臼杵石仏(せきぶつ)です。歴史的な価値はもちろん、芸術作品としてもすぐれており、「ホキ石仏第1群(堂ヶ迫石仏/どうがさこせきぶつ)」「ホキ石仏第2群」「山王山(さんのうさん)石仏」「古園(ふるぞの)石仏」の全4エリアに安置されている61体の石仏すべてが、国宝に指定されています。なお、ホキとは「がけ」という意味の地名です。
そんな臼杵市では、2021年8月1日から10月31日までの期間、「推し仏」を選ぶ〈国宝臼杵石仏美仏総選挙2021〉を、現地とWebでの投票によって実施。一体どんな石仏が立候補し、見事「第一次美仏内閣」内閣総理大臣の座をつかんだのはどの仏さまだったのか、選挙結果を報告します。
また、後半では臼杵石仏観光の際に立ち寄りたい、おすすめスポットも紹介します。
2024年9月26日情報更新
「国宝臼杵石仏」から
9体の仏さまが選挙に立候補!
今回“立候補”したのは大日如来や不動明王など9体。名前がしっかり分かって説明ができるものや特徴のある仏さまを選んだそう。
面白いのは、その選挙ポスターです。それぞれのお名前とお姿、キャッチコピーが描かれた様子は、まさに人間界の選挙と同じ。各石仏前に設置されたパネルや、公式サイトに書かれた紹介文を合わせて読めば、理解度もグンッと高まります。
例えば、エントリーNo.2のホキ石仏第二群第二龕(がん:石窟などの壁面に仏像や仏具を納めるために設けたくぼみのこと)「阿弥陀如来立像(あみだにょらいりゅうぞう)」のキャッチコピーは、「即行動! フットワークで極楽住生を約束します!」。生きとし生ける者を救済するため、極楽浄土からフットワーク軽く現世に来られる阿弥陀如来らしい決意表明です。
また恋愛に悩む人は、No.7のホキ石仏第一群「愛染明王坐像(あいぜんみょうおうざぞう)」はいかがでしょう。よこしまな愛情や他人との争いごとの悪縁を断ち切り、正しい愛情に満たされた円満な社会をつくる仏さまで、キャッチコピーは「愛憎問題の解決、お任せください!」。心強いお言葉に安堵すら覚えます。
現代のライフスタイルではあまり触れることのない石仏ながら、お顔に湛える豊かな表情や、それぞれのお役目、意外なエピソードなどを知ると、途端に身近な存在に感じられるから不思議です。
中間発表で多くの票を集めているのは
「大日如来坐像」
白熱する〈国宝臼杵石仏美仏総選挙〉ですが、中間発表によると、現地投票数が3137票、WEB投票数が1673票も集まったそう。
2021年9月末時点で、最多の得票数を獲得したのは、エントリーNo.5のホキ石仏第一群第三龕「大日如来坐像」です。キャッチコピーは「小さくても、宇宙を背負ってがんばってます!」。真言宗や天台宗といった密教における最高の仏さまで全宇宙を表す存在だけあり、「コロナの時代、全世界の救済をお願いできそう」「小さくとも宇宙を背負う心意気にぐっときます」などなど、宇宙規模のお力に惹かれる有権者が多いようです。
また、現地投票で得票数が高かったのが「行動の前に、しっかり考えます!」という謙虚なキャッチコピーが目を引く、エントリーNo.3のホキ石仏第二群第一龕「あみだ如来坐像」。「仏さんのバランスがよく美しい。大きさもありおだやかさもある」「整然とされたお姿に身が正される印象を覚えました」などのコメントが見られました。対面することで感じられるプラスの何かがありそうです。
「第一次美仏内閣」内閣総理大臣の座を
つかんだのは!? 最終結果を発表
投票期間が終わり、ついに臼杵石仏の新内閣「第一次美仏内閣」が誕生。投票総数9057票(現地投票数6907票、WEB投票数2150票)のなかから見事、内閣総理大臣に選ばれたのは中間発表でも最多の得票数を誇った、エントリーNo.5の大日如来坐像でした!
惜しくも内閣総理大臣の座を逃したほかの仏さまにも、閣僚として全員にポストが与えられています。たとえば、エントリーNo.1のホキ石仏第二群第二龕「不動明王(ふどうみょうおう)」は防衛大臣、エントリーNo.4のホキ石仏第一群第四龕「地蔵菩薩半跏像(じぞうぼさつはんかぞう)」は法務大臣など。
この総選挙を主催した臼杵市観光協会のホームページでは、すべての仏さまの就任コメントや指名理由なども紹介しています。
臼杵石仏を鑑賞するなら
合わせて訪れたいおすすめスポット
白熱した総選挙を通して、より臼杵石仏を身近に感じたところで、実際に訪れて実物を目にしたいと思った方も多いはず。そこで、ここからは臼杵石仏からアクセスのよい、おすすめ観光スポットを2か所紹介します。
“幻の焼物”臼杵焼の魅力を体感できる〈うすき皿山〉
“幻の焼物”として知られる「臼杵焼」。今から約200年前の江戸時代後期に臼杵市の末広地区でつくられていたことから、当時は末広焼と呼ばれていました。しかし、その歴史はわずか十数年で途絶えてしまうことに……。
臼杵焼は、そんな末広焼を現代版にリブランディングしたもの。残っていた資料をもとに新しく生まれ変わった焼物は、モダンでエレガントなデザインが特徴です。
臼杵石仏から歩いて10分ほどの場所にある〈うすき皿山〉では、臼杵焼を実際に見て触れて、使うことで、その魅力を堪能することができます。
アトリエでは職人さんの作業風景を見学することができるほか、臼杵焼の型打ち体験などもできます。自分だけの1枚をつくって、旅の思い出にするのもいいですね。
〈石仏観光センター〉のレストランで臼杵の食文化を味わう
〈石仏観光センター〉に入っているレストラン〈郷膳うさ味〉では、臼杵産の旬の食材を使った料理をいただくことができます。
2021年、臼杵市はユネスコの「食文化創造都市」に認定。「季節のごはん」は、その認定にあたり評価された、臼杵の食文化を支える「発酵」「質素倹約」「有機農業」をまるごと味わえるようなメニューになっています。
旬の野菜を使った小鉢などを中心に12種類の品々が一度に楽しめ、肉や魚を使っていなくても大満足できる一品です。そのほかにも、大分県の郷土料理などがメニューに並びます。
また、併設する土産物店では臼杵の特産品などを販売。合わせて立ち寄ってみてはいかがでしょうか?
*価格はすべて税込です。
credit text:坂口ナオ、柿崎真英