【完全ガイド】300年の歴史を持つ小鹿田焼。9軒すべての窯元と民陶祭の魅力を総まとめ
そもそも小鹿田焼って?

日本の原風景が残る大分県日田市の皿山地区で、約300年もの間、伝統的な技法を守りながらつくり続けられている陶器が「小鹿田焼」です。読み方は、「おんたやき」。その技法は国の重要無形文化財に指定されており、民藝運動の創始者である柳宗悦が「世界一美しい民窯」と称したともいわれています。
この地に焼き物づくりが伝わった江戸時代から変わらず、技術を継承している窯元は9軒。土づくりから、ろくろでの成形、窯焚きまですべてを手作業で行っています。
小鹿田焼の伝統的な技法に、鉋(かんな)を用いて連続的な細かい模様をつける「飛び鉋」や、半乾きの素地に白い化粧土を塗り、それが固まる前に刷毛(はけ)を当てて濃淡を表現する「打ち刷毛目」、櫛(くし)で波形の曲線を描く「櫛描き」、柄杓(ひしゃく)を使って釉薬を陶器にかける「打ちかけ」などがあります。
小鹿田焼が人気の理由とは

素朴な幾何学模様が特徴の小鹿田焼は、やさしい色味と風合いが人気。アート作品とは違い、暮らしに寄り添う器であるため、特定のつくり手による名入れや独自の絵つけなどはせず、9軒あるすべての窯元で同じ素材、同じ技法を用いてつくられます。
小鹿田焼はどこで買える? 小鹿田焼民陶祭も

小鹿田焼はそれぞれの窯元で販売しているほか、通販や東京の取扱店などでも購入できます。また、毎年10月の第2週の週末に開催される〈小鹿田焼民陶祭〉では、9軒すべての窯元が大々的に陶器を販売します。

里に工房を構える9軒の窯元が、この日のために焼き上げた器をずらりと並べて販売する貴重な機会。そのため、全国から焼き物好きや民藝ファンが訪れ、普段は静かな山あいの集落に活気があふれる特別な2日間となっています。
実際に手にとって選べる機会なので、このタイミングを狙って〈小鹿田焼の里〉を訪れるのもおすすめです。

9軒の窯元を一挙に紹介!

「小鹿田焼」は里の共同ブランドであり、基本的に個人名を出さずに作品をつくっています。とはいえ、手仕事ゆえに、それぞれつくり手の個性が出るのも魅力。この記事では、小鹿田焼を作陶している9軒の窯元をご紹介します。
小鹿田焼協同組合の理事長親子が営む〈坂本工(たくみ)窯〉

小鹿田焼協同組合の理事長を務める8代目・坂本工(たくみ)さんと、その長男・創(そう)さん親子が営む坂本工窯。個人窯を持つこの窯元では、火入れのタイミングから焼成のペースまで、すべてを自分たちの判断で行えるため、作陶のリズムも親子ならでは。その伸びやかな空気感は、器にも息づいているようです。
工さんは「色彩や装飾ではなく、形そのもので感動を呼ぶ器」を追求し、確かな技術をもって作陶されています。一方、創さんは、受け継いだ技法を大切にしながらも、指描きや刷毛目に遊び心をもたせ、どこか今の空気を感じさせる表情の器を生み出しています。また全国で個展を行い、小鹿田焼の“これから”を静かに広げていくような発信を続けています。

address:大分県日田市源栄町176
2025年の日本民藝館賞を受賞した〈坂本浩二窯〉

坂本浩二窯は、集落の中心近くにある窯元です。小鹿田焼協同組合の副理事長を務める6代目・浩二さんと、その長男・拓磨さんのおふたりで作陶されています。浩二さんは高い技術が必要な大物の皿や壺の制作を得意としており、拓磨さんは日々釉薬の研究に励み、2025年の日本民藝館賞を受賞した、確かな技量の持ち主。
敷地内のショップには、おふたりが制作した器たちがセンスよく並べられており、眺めているだけで「暮らしを豊かにしてくれる道具」のイメージが自然と湧いてきます。インテリアに馴染む色合いとサイズの植木鉢も、人気アイテムのひとつなのだそうです。

address:大分県日田市源栄町174
ぽってりと愛嬌のあるマグカップが人気、〈坂本健一郎窯〉

7代目・健一郎さんとお母さまが二人三脚で営む坂本健一郎窯。最大の特徴は、ろくろを蹴りながら器の全面にびっしりと刻まれる飛び鉋です。機械ではなく、人の手でひとつひとつ刻まれたとは信じられないほどの密度が豊かな陰影を生み、土の質感を引き立てています。
つくる器の種類は幅広く、近年はぽってりとした愛嬌のあるマグカップが人気とのこと。健一郎さんは「軽いほうが扱いやすい器は軽く、重みが必要なものはしっかりと」、用途に応じて重さやバランスを微調整しており、民藝らしい“使う人目線”を大切にしながら、普段使いの器をつくっています。

address:大分県日田市源栄町143
幅広いラインナップの〈坂本庸一窯〉

小鹿田の里のなだらかな坂道を上りきった場所にあるのが、6代目・庸一さんと先代・義孝さん親子が営む坂本庸一窯です。器の内側に細やかな飛び鉋をあしらったり、縁だけに釉薬をかけたりと、さりげない工夫が印象に残ります。
器のラインナップは幅広く、特に中皿や小鉢は使い勝手の良さから人気の定番に。伝統的な技法を守りながらも、ほどよくモダンな空気をまとった庸一さんの器は、どこか余白を感じさせ、日々の食卓に自然と馴染む心地よさがあります。

address:大分県日田市源栄町140
小鹿田焼開祖の流れを継ぐ〈柳瀬元寿(もとひさ)窯〉

小鹿田焼開祖のひとりである柳瀬三右衛門の流れを継ぐ14代、柳瀬元寿(もとひさ)窯。13代目の父・晴夫さんと並んでろくろに向かいながら受け継いだ、飛び鉋や刷毛目などの小鹿田焼の伝統的な技法を、いまの暮らしに合う形へと磨き上げています。
元寿さんの器は、模様や種類の豊富さも魅力のひとつ。小さめの飯碗は、子ども用と思いきや「自分用に」と選ぶ人が多い人気の品なのだそう。また、「カレーにぴったり」だという飲食店のオーダーから生まれた変形鉢には、元寿さんの現代的な感性と確かな技が宿っています。

address:大分県日田市源栄町152
渋みのある佇まいが魅力の〈柳瀬裕之窯〉

小鹿田焼の里の中央付近に工房を構える 柳瀬裕之窯。6代目・裕之さんは、先代・朝夫さんの仕事を受け継ぎ、落ち着いた表現と確かな技を積み重ねています。
裕之さんの器は、土の質感を生かした渋みのある佇まいが魅力。黒釉の深い色味や、白化粧の上から大胆に重ねる指描きなど、小鹿田焼らしい力強さが感じられる一方で、どこかやわらかな遊び心も感じられます。素朴で飾らない雰囲気が、日々の料理をやさしく引き立ててくれます。

address:大分県日田市源栄町155
「暮らしの変化に合わせた器」〈黒木昌伸窯〉

集落の中心にある共同窯の脇に工房を構えるのが、黒木昌伸窯です。7代目・昌伸さんの器は、流れるような刷毛目や整然と刻まれた飛び鉋、さりげない釉のかけ方にも、控えめながら確かなセンスがにじんでいます。伝統を受け継ぎつつ、軽やかで現代的な空気をまとっているのが特徴です。
スープにも小鉢にも使えるカップ類や、用途に寄り添う切立皿など、形の提案にも柔軟さがあります。「暮らしの変化に合わせたものをつくりたい」という昌伸さんの言葉どおり、日々の食卓に寄り添う器を丁寧に生み出し続けています。

address:大分県日田市源栄町181
端正でブレのない“定番”と、好奇心が混ざり合う〈黒木史人窯〉

小鹿田焼開祖のひとりである黒木十兵衛から続く12代目の黒木史人さんと、その長男・嘉津才(かずさ)さんが営むのが黒木史人窯です。史人さんは白釉に飛び鉋、黒縁の大皿など、端正でブレのない“定番”を淡々と積み重ねてきた職人肌。
一方、嘉津才さんは「父と同じ模様をつくってもしょうがない」と語り、これまでなかった赤や濃い緑の釉を試したり、より深く長い飛び鉋を生み出すために自作の道具を工夫したりと、新しい表現を模索中なのだそう。好奇心を原動力に、色や模様の可能性を広げています。対照的なふたりの器が同じ棚に並ぶ光景も、この窯元の大きな魅力です。

address:大分県日田市源栄町148
3世代がそれぞれの感性を重ねる〈小袋道明窯〉

皿山の入口近くに工房と個人窯を構える小袋道明窯。黒木家から分家して生まれた窯元で、9代目の道明さんは20代の頃から作陶に取り組んできました。皿や鉢、カップなどの基本の形が美しく、繊細な飛び鉋からにじみ出るやさしい佇まいが魅力です。
整然とした工房の様子からも、仕事の丁寧さがうかがえます。用途に応じて土の固さを調整するなど、ひとつひとつの仕事に細やかに向き合う姿勢が、器の素朴な美しさにつながっているようです。
近年は、長男の杏梓(あんじ)さんも有田や多治見での修業を経て小鹿田に戻り、制作に加わっています。先代の定雄さんと道明さん、そして杏梓さんの3世代が揃い、それぞれの感性を重ねながら、小鹿田焼の歩みを未来へとつなげています。


address:大分県日田市源栄町170
〈小鹿田焼陶芸館〉で小鹿田焼の魅力をさらに深掘り

小鹿田焼の里を訪れたら立ち寄ってほしいのが〈小鹿田焼陶芸館〉です。
館内にはたくさんの貴重な陶器が展示されており、小鹿田焼の歴史と伝統的な技法をわかりやすい映像やパネルで紹介しています。屋外の東屋からは、小鹿田皿山の風景を堪能することもできます。小鹿田焼の里を散策する際にはぜひチェックしてみてください。
address:大分県日田市源栄町138-1
tel:0973-29-2020
access:JR日田駅から車で30分
営業時間:9:00〜17:00
定休日:水曜、年末年始※水曜が祝日の場合は営業、翌日休み
入館料:無料