宇賀なつみが行く、
あなたの知らないアートな別府。
温泉だけじゃない! 別府はアートも熱いんです。
人が入浴できる温泉のうち、湧出量・源泉数ともに世界一の湯のまち・別府。実は今、アートも温泉と同じくらい熱いんです。
「なぜ、別府でアートなんですか?」
そう尋ねるフリーアナウンサーの宇賀なつみさんは、お酒はもとより、旅好き、温泉好き、そしてアート好き。ここはまさに宇賀さんにうってつけなまちなのです。
別府がアートのまちになった大きなきっかけのひとつは、2009年に開催された別府現代芸術フェスティバル「混浴温泉世界」。国際色豊かなアーティストが別府に実際に滞在し、構想・制作した作品を体験できる、この芸術祭を機に、さまざまなアートプロジェクトが現在まで続いています。
別府の伝統工芸品やアートが揃う〈SELECT BEPPU〉
最初に訪れたのは、別府に縁のある作家や職人の作品、作家とコラボレートしたオリジナル商品などが揃う〈SELECT BEPPU〉。
藍色ののれんが印象的な、風情ある佇まいの建物は、1階がセレクトショップ、2階が世界的アーティストのマイケル・リンによる襖絵の展示エリアになっています。
急勾配の階段をゆっくりあがると、畳張りの和室に、突如として鮮やかな色彩が現れます。
「和室に、ブルーやピンクの世界が広がるなんて。この違和感がいい。長屋特有の天井の低い空間で、たった数枚の襖絵がすべてを支配していて、圧倒的な迫力がありますよね。なにより、こんな間近に作品を見られるのがすごい!」(宇賀さん)
心ゆくまで作品を鑑賞したら、いざ、お買い物タイムへ。
宇賀さんが手にとっているのは、edit Oitaの連載でも取材した陶芸家・坂本和歌子さんの一輪挿し。シンプルなフォルムと、ブルーから白へのグラデーションが美しい。
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「私、これ買います! スープカップとリム(縁)のあるお皿。決め手はこの大きさと形ですね。珍しいと思って。角皿にはお酒のつまみになるような乾き物を入れようかな(笑)。こんなにすてきなうつわが、ひとつ3000円ちょっとで買えるなんてうれしい」(宇賀さん)
別府のまちを美術館に見立てたとき、そこに関連する商品や情報が集まる「別府のまちの、ミュージアムショップ」でもある〈SELECT BEPPU〉。取り扱う商品は一点ものも多いので、一期一会の出合いを楽しみましょう。
まちに点在する壁画を目指して、宝探しの散歩へ。
次の目的地へ向かう道中、目に飛び込んできたのは、建物の2階壁面に大胆に描かれた花模様。
別府にはこのような壁画が点在しており、まち歩きのおもしろさを体感できます。
「私、散歩が好きなんです。音楽を聴きながら歩いていると、気づいたら2〜3駅分くらい歩いていたこともあって。別府のまち歩きでこんな作品に出合えるなんて、なんだか宝探しみたいですね。どこまでも歩けそうです」(宇賀さん)
暮らしながら創作活動。アーティスト・イン・レジデンス〈清島アパート〉
〈SELECT BEPPU〉から10分ほど歩くと、次の目的地〈清島アパート〉に到着。昭和の面影が色濃く残る味わい深い建物です。
戦後すぐに建てられたという元下宿で、現在はアーティストの居住と創作の場であるアーティスト・イン・レジデンスとして、別府を活動拠点とするアートNPO〈BEPPU PROJECT〉が運営しています。
1階がアトリエ、2階が居住スペースとなっており、アーティストはなんと月額1万円で利用できるのだそう。別府では若手アーティストの育成にも余念がありません。
はじめに訪れたのは、日本の伝統文様や浮世絵を現代的にアレンジした絵画や、独創的な有田焼のオブジェなど幅広い作品を手がける小山眞さんのアトリエ。
「スタジオのある日本と中国、タイ、オーストラリアをいったりきたりして活動していたんだけど、コロナ禍をきっかけに帰国。2020年4月に入居しました。僕は今、74歳。ここには21歳の若い子もいて、彼らに刺激を受けていますよ」と小山さん。
「アーティストの制作現場を見学できるなんて、すごい体験をしている……」と宇賀さんも興奮を隠しきれません。
そして次のアトリエで、さらなるワンダーな世界へ誘われることに。
「僕はタイヤを引きずる活動をしています」
昭和19年8月と刻印された戦時中の戦闘機のタイヤを見せながら、そう話してくれたのは芸術探検家の野口竜平さん。
「まるでスポ根! それって何のために? いや、アートに目的を求めること自体、ナンセンスなのかしら?」と、混乱気味の宇賀さんでしたが、野口さんも自身の活動に対して自問自答しているのだとか。
「タイヤを引きずりながら台湾の島を1周しました。引きずっている最中に交流が生まれたり、アクシデントが発生したり、日によって起きる出来事や思うことが違いました。この世に不変なものなどないと思い知らされましたね」(野口さん)
どのアトリエも同じような間取りなのに、当然のことながら、アーティストによってまったく違う景色と空気が広がっています。
「不思議な時間だった……!」と、宇賀さん。深く熱い別府アートの血潮を感じたひとときでした。