仕上がった日田下駄を手にする宇賀なつみさん
特集|大分の小京都・日田へ

歴史と風土が育んだ小鹿田焼と日田下駄。
宇賀なつみが日田の手仕事にふれる旅へ | Page 2

Posted 2021.12.08
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伝統と革新の〈本野はきもの工業〉で日田下駄をカスタマイズ

次に訪れたのは、昭和23(1948)年創業の日田下駄専門店〈本野はきもの工業〉。

良質な杉や檜の産地として知られる日田は、静岡県静岡市、広島県福山市に並ぶ下駄の三大産地のひとつ。日田杉の端材を活用した下駄づくりは、江戸時代の天保年間に始まったとされ、今では市内10か所ほどでつくられています。

〈本野はきもの工業〉3代目の本野雅幸さん
下駄王子と呼ばれている、3代目の本野雅幸さん。一年中下駄を履いているのだとか。

「日田下駄の魅力は、その軽さと柔らかさ。下駄は足指を広げるから、実は足が疲れにくいんです。そのうえ知らず知らずのうちに、指や足裏の筋肉が鍛えられるので、健康促進も期待できますよ」と話すのは、3代目の本野雅幸さん。

立ち仕事が多い宇賀さんにうってつけですね。

9センチヒールの〈みゅーる下駄〉
一見、下駄には見えない9センチヒールの〈みゅーる下駄〉(店舗販売限定・受注生産)。現在品切れ中の人気ぶりです。

店内には、和装以外でも普段着のアクセントとして取り入れられるよう、モダンな下駄が並びます。

〈本野はきもの工業〉の店内
伝統的な一足から、モダンなものまで、さまざまなタイプの下駄が揃う店内。

分業制が一般的な日田下駄づくりにおいて、本野さんがこだわっているのは一貫生産。木地づくりから販売まですべてを自分たち家族で行っています。

伝統はきちんと守りつつも、〈スノーピーク〉や〈ビームス〉といったブランドや、時には漫画『進撃の巨人』など、さまざまな相手とコラボレーション。現代のニーズに合ったデザインを展開し、下駄界にイノベーションを起こしているのです。

日田杉を研磨機にあてる本野さん
削り出した日田杉を研磨機にあて、下駄のフォルムを整えていきます。

「ひと口に下駄といっても、木目の個性はさまざま。まっすぐで整った柾目(まさめ)や、節が多く曲線が特徴的な板目(いため)、そしてそれらにバーナーで焼き目をつけて木目を色濃くだした焼き加工などがあるんですよ」と本野さん。

同じフォルム、同じ鼻緒でも、木目の違いから世界に一足だけの下駄が今日もつくられています。

研磨機で下駄のフォルムを整える様子
数ミリ単位で調整していく、熟練した職人だけがなせる技。

下駄の形もスタンダードな丸型から四角、爪先がとがったハイヒール型、さらには赤や黄色の鮮やかなオリンピックカラーや下駄の表面に生地を貼り付けたものなど、さまざまなデザインが魅力です。

鼻緒を選ぶ宇賀さん
「どれにしようかなぁ」。黒塗りの下駄を手に、鼻緒選びに悩む宇賀さん。

宇賀さんも、木地と鼻緒を自分好みに組み合わせるカスタマイズに挑戦してみることにしました。どうやら、艶やかな墨塗りの下駄が気になる様子……。

「神代焼(じんだいやき)」が施された下駄を試し履き
木目がひと際目立つ「神代焼(じんだいやき)」が施された下駄。木地を焼いた後、磨くことで木目がこのように浮き出るそう。

試し履きをしてみる宇賀さん。

「磨くことで柔らかい部分が削られて、焼き目がうっすらと浮き出ているんですね。立体的で、足裏を刺激します。意外と足にフィットするし、軽くて歩きやすい!」

鼻緒を取り付ける作業
悩んだ結果、選んだのは墨塗りでした。

最終的に、宇賀さんが選んだのは一番最初に手に取った黒塗りの下駄。落ち着いた紫ベースの鼻緒を、本野さんにしっかりつけてもらいます。

「履いているうちにだんだん鼻緒が緩んで広がっていくので、ちょっときついくらいに締め上げたほうがいいんです」と本野さん。

「下駄は履き慣れている人以外はハードルが高い印象があるかもしれません。ですが、実際履いてみると、透湿性があってさらっと快適な履き心地を楽しめます。ジーンズやワンピースなどに合わせて履きこなしてもらえたら」と話します。

完成した宇賀さんオリジナルの下駄
足元を上品に演出してくれる墨塗りの日田下駄。宇賀さんにぴったりです。

世界にひとつだけの日田下駄を手にして、満面の笑みを浮かべる宇賀さん。

「私が選んだのはこのシンプルな木目のもの。シックな黒塗りの下駄なら、カジュアルになり過ぎず、日常使いによさそうです」とうれしそうに話してくれました。

Spot 02
Information
本野はきもの工業
address:大分県日田市三芳小渕町1080-3
tel:0973-22-4460
access:JR日田駅から車で約5分、徒歩20分
営業時間:9:00〜18:00
定休日:不定休(来訪時は事前に店舗へ要確認)
web:本野はきもの工業

日田の手仕事に触れてみて

脈々と受け継がれてきた日田伝統の工芸品。その伝統を守りつつも新たな表現方法を模索する小鹿田焼の坂本さん父子と、伝統に裏打ちされた技術をもとに革新を起こす日田下駄の本野さん。

どちらも一朝一夕にはなし得ない、日田の長い歴史と風土が育んだすばらしい逸品のつくり手でした。

大分に来たら温泉にグルメもいいけれど、一生大切に使い続けたい品々に出合う日田旅も、なかなかいいものです。

※価格はすべて税込みです

credit text:藤田佳奈美 photo:ただ hair & make:福田綾 styling:近藤和貴子

衣装クレジット ワンピース22000円(FRAY I.D/FRAY I.D ルミネ新宿2店)、コート38500円(ベッドアンドブレックファスト/グリードインターナショナル トウキョウ ストア)、イヤリング53900円(ヴァンドーム青山本店/ヴァンドーム青山本店)、リング16500円(ケンゴ クマ プラス マユ/ヴァンドームヤマダ)、バック30000円(アニタ ビラルディ/CPR TOKYO)、シューズ18150円(エフ バイ ウェルフィット/ダイアナ 銀座本店)
以上、価格はすべて税込み。

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