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別府の名物スポットの記憶を後世に残す〈ヤングセンターステンドグラス補完計画〉

Posted 2022.09.20
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別府市鉄輪(かんなわ)で半世紀以上に渡って親しまれ、2020年に惜しまれつつ閉館した大衆劇場であり、温泉旅館でもあった〈ヤングセンター〉。かつて、この温泉浴場内は色とりどりのステンドグラスで彩られ、訪れる人に感動と癒やしを与えていました。

その光景に心を奪われたひとりが〈ヤングセンターステンドグラス補完計画〉の発起人である東京神父さんです。このプロジェクトは、〈ヤングセンター〉取り壊しの知らせを聞いた神父さんが、どうにかこの場所の記憶を残せないかと解体現場に足を運び、クラウドファンディングで活動資金を募るなど行動を起こしたのが始まりでした。

感動を与えてくれた思い出の場所の一部を残したい

東京を拠点に写真家として活動する神父さん。生まれ育った別府市で、このステンドグラスと出合ったのは2018年のことでした。

「別府八湯温泉道の名人を目指し始めた頃ですね。当時、〈ヤングセンター〉はお芝居を見ないと温泉に入れなかったんですが、そのときは温泉だけ利用することができる期間で。だったら一度は入っておこうと思って、行ったのがきっかけです」。

男性のポートレート
東京神父さん

初めて訪れたときの感動は、今でも覚えていると言います。

「神殿や神社と同じように、何か神がかったものを感じました。鉄輪温泉にある〈谷の湯〉もそうですが、別府にはパワーを感じる温泉がいくつかあって、ヤングの温泉もまさにそのひとつでした。僕にとっては、地元への愛が芽生えた最初の場所で、別府での活動の原点になったと言っても過言ではありません」。

昔の鉄輪の様子
1953年の創業後、67年間に渡って親しまれた〈ヤングセンター〉。

ステンドグラスは男湯に9枚、女湯に4枚の計13枚。差し込む陽の光が温泉に色を落とし、キラキラと揺れる様子は、神父さんのみならず多くの人の心をつかんだことでしょう。閉館にあたり、建物の取り壊しが決まった際は「ただただ感動した温泉を残したい。それが無理なら、せめてステンドグラスだけでも残したいという想い」で行動を起こしたと言います。

解体現場での集合写真
解体作業時の様子。

最初はたったひとりで始めたプロジェクトでしたが、神父さんと同じように〈ヤングセンター〉の温泉に特別な想いを持つ人たちなどが賛同し、実行委員ができるまでにその輪が広がっていきました。

クラウドファンディングでは、主に回収したステンドグラスの新たな引き取り先への設置費用を募集。現在(2022年8月時点)、7枚のステンドグラスが別府市内のみならず由布市や豊後大野市など6か所で、再びその姿を見せています。これから設置予定のものもあるということなので、気になる人は公式ホームページから状況をチェックしてみてください。

宿の玄関
新たな設置場所となった別府市鉄輪の〈湯治宿ひろみや〉。
浴場
また別の1枚は別府市北浜にある温泉旅館〈山田別荘〉の浴場内で見ることができます。

この活動を通して、〈ヤングセンター〉の経営者から「皆さんにヤングセンターが愛されていたということを改めて知ることができた」と喜びの声をもらったほか、ステンドグラスを新たに引き継いだ事業者からも「それぞれの場所で、それぞれの物語がまた生まれていて、引き取ってよかった」という言葉をもらったそう。双方にとってよいかたちで別府の名物スポットの記憶を残すことが実現できたようです。

「生まれ育った大好きな別府のまちを世界に広めることが僕のライフワークでもあります」と話す神父さん。今後も東京と大分の二拠点生活を続けながら、2020年に別府市内で行われた『141歳の写真展』のリバイバル開催の実現や、現在進行中のプロジェクト〈別府温泉ルートハチハチ〉の撮影などにも力を入れていくそう。

プロジェクトのこれからの活動としては、引き続きステンドグラスの設置作業に取り組みながら、すべての引き継ぎが完了したあとに設置先をまとめたガイドマップの役割を果たすオフィシャルサイトを制作予定。途中でおいしいものを食べたり、地元の人に声をかけたりと、寄り道しながら“聖地巡礼”を楽しみたいものです。

Information
ヤングセンターステンドグラス補完計画
web:ヤングセンターステンドグラス補完計画 公式ホームページ

credit text:柿崎真英

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