連載|食卓で使いたい、大分の手仕事
料理が映える“幻の焼物”、臼杵焼。
料理が映える“幻の焼物”、臼杵焼。
陶芸家・宇佐美裕之さん | Page 2
手のぬくもりを残すことに、意義があるんです
もともと陶器をつくっていた宇佐美さんですが、いったん歴史から忘れられた焼物――特に強い印象を受けた白磁のうつわーーを復興させるため、磁器づくりにも挑戦し始めます。まちの旧家に残ってた焼物や古い資料を研究し、試行錯誤を重ねたのち、「ろくろ挽きと型打ち成形を組み合わせる技法」にたどりつきました。
「型打ち成形」とは、生地を薄くのばしたのち、石膏の型にかぶせて手で押しつけて形づくる技法。臼杵焼のもとになった末広焼でも、輪花型のうつわなどに用いられていた方法です。陶土を型に流し込んでつくる「型成型」に比べて手間も時間もかかる分、手の跡や心地よいゆがみがわずかに残り、温かみが生まれます。
工房では数名の職人さんたちが、輪花鉢や縁にレリーフ(彫り)の入った皿などをつくっています。ろくろ挽きでベースの円形をつくったと、ひとつずつ型に押し当てるものもあれば、土の塊を板状に薄くのばしてから型に当てて形づくる変形皿も。指を使って花びらの形を成形していく様は、お菓子のパイやタルトづくりみたいです。
「宇佐美さんも僕らも“新しいものを生み出したい”という気持ちが大きい。まだ若い工房なのでチャレンジの連続ですし、仕事が楽しいんですよね」と話してくれたのは、職人のひとりである玉田コウキさん。臼杵でバーテンダーをしていたところ、宇佐美さんに誘われて工房に参加したそうです。
ほかにも、京都で陶芸を学んだ若い女性や書道家、イタリア人の職人など、さまざまな背景を持つつくり手が集まっています。
「そう。うつわは人の生活の中から生まれ、生活の中で使われるものだから」という宇佐美さん。臼杵焼は白く美しいだけでなく、どんな生活にも溶け込む素直さや使いやすさなど多面的な魅力を備えている。その理由の一端が垣間見えた気がしました。
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