ポルトガルやスペインの人々の姿をモチーフにした〈南蛮鈴〉
連載|日常を楽しくする、大分の手仕事

鳩笛、福獅子、だるま鈴。
愛され続ける土人形。
土人形作家・宮脇弘至さん

Posted 2022.05.31
Instagram X Facebook

品よくかわいく縁起もいい。大分の人形文化を伝えたい。

シンプルな形、きれいな色、ちょこんと描かれた小さな目。それだけなのに、どうしてこんなに愛くるしいんだろう? 土でできた手のりサイズの焼き物は、軽く振るたびコロコロ高い音が響きます。聞けばその名は〈みくじ鳩〉。かわいいだけじゃなく、なんだか縁起もよさそうです。

土人形〈みくじ鳩〉と〈小鳩鈴〉
別府にある工房〈豊泉堂(ほうせんどう)〉の宮脇弘至さんがつくる土人形〈みくじ鳩〉(右・高さ約7.5センチ・770円)と〈小鳩鈴〉(高さ約5センチ・660円)。みくじ鳩のモチーフとなったのは、かつて大分県の〈八幡総本宮 宇佐神宮〉でおみくじの授与品として配られていた白鳩。これを土鈴にアレンジしたそう。

「かわいいでしょう。好きになっちゃうでしょう。でも、この人形を一番好きなのは、たぶん僕なんだよね」と笑うのは宮脇弘至さん。別府市の工房〈豊泉堂〉で土人形をつくり続けて40年。型づくりや成形から焼成、絵付けまで、すべてをひとりで手がけています。

工房の庭に立つ宮脇弘至さん
宮脇弘至さん。20代の頃、名古屋市から大分県別府市に移住。人形や土産物を扱う問屋〈豊泉堂〉で働いた後、看板を継いで屋号とし、土人形をつくり始めました。

工房にお邪魔すると、まず目が合ったのが紅白の〈福獅子〉。か……かわいい! 消しゴムくらいの大きさで、よく見ると口が「阿(あ)」「吽(うん)」の形になっています。原型は、かつて豊後地方で厄よけや豊作を願って舞われたといわれる“豊後福獅子”をかたどった縁起物。そう、宮脇さんがつくっているのは、大分の郷土玩具をもとにした人形なのです。

宮脇さんの工房の外観
工房は別府市内。緑が生い茂る敷地に立っています。
〈豊泉堂〉と書かれた看板
玄関には友人が書いたという看板。奥にちょこんと鎮座するのは昭和30~40年代のものとおぼしき大分県の郷土玩具。
紅白一対の土人形〈福獅子〉
コロンとした小さな土人形〈福獅子〉は宮脇さんの作。紅白一対で口は阿・吽の形。首元には鈴をかたどった模様が描かれています。1体は高さ約4.5×幅約3.5×奥行約3センチ。セットで1320円。

郷土玩具とは、江戸時代より各地の神社や街道沿いで、土産物や縁起物、魔よけのお守りとしてつくられていたもの。中を空洞にした素焼きに絵付けをした「土人形」や、紙でできた「張子人形」が知られていますが、時代とともに廃れてしまったものも少なくありません。宮脇さんは、大分県各地に残る郷土玩具をもとに、時代にあったアレンジをしつつ復元しているのです。

「昔の福獅子は木彫りだったのですが、それを土人形にしたのが僕の福獅子。長年つくっているうちに、形や表情もだんだん丸くかわいく変化して、現在のもので4代目ですね。郷土玩具の雰囲気やイメージは残しながら、今の人にも理解される姿にするのが僕のやり方。そのものずばりの形を受け継ぐというより、“大分には昔から、こんなふうに愛されてきた人形があるんだよ”ということを伝えたくてつくり始めました」

工房に飾られた古くに作られた福獅子
古くから伝わる木彫りの福獅子。おそらく昭和の作でつくり手は不明。
ケースに飾られた宮脇弘至さんの土人形作品たち
ケースの奥に3対並ぶのが宮脇さんによる土人形の福獅子。左が30年ほど前の作で、木の福獅子を意識したシャープな造形。中央が20年前、右が近年のもの。だんだん丸くかわいくなっています。

名古屋市出身の宮脇さんが大分県別府市に移住したのは20代前半の頃。「土人形に関わるようになったのは、問屋の仕事を通じて職人さんと出会い、自分にもできるんじゃないかと思っちゃったのがきっかけです」

ひと通りの工程を教えてくれた職人は、伝統にのっとってきっちり真面目につくるタイプだったけれど、「僕は勝手きままにやるのが性に合っていたんですよね。28歳で独立して、僕らしい人形を好きなようにつくることに決めました」

大小2つの〈鳩笛〉
「かわいいことに加えて、佇まいに品があって清楚なものが好き」と宮脇さん。シンプルな〈鳩笛〉は、かつて子どもの喉詰まり除けのおまじないとされた白鳩をモチーフにつくられています。〈鳩笛〉(大)高さ約7.5×幅約5×奥行約5センチ・880円。(小)高さ約5×幅約4×奥行約3センチ・660円。

最初は全然売れなかったけれど、時代はちょうど温泉天国・由布院の人気が出始めた頃。〈玉の湯〉や〈亀の井別荘〉といった人気旅館が宮脇さんの人形を売店で扱うようになり、その名前がぐんぐん知れ渡りました。

「東京に行ったとき、民藝品を扱う〈銀座たくみ〉や〈備後屋〉へ遊びに行って人形を見せたら、“君のような若い人が郷土玩具をつくるのはいいことだ”と置いてくれて。僕は本当に運がいい。人に恵まれているんですよね」


季節や行事に合わせてつくる〈だるま鈴〉と2022年の干支、寅バージョンの〈招き猫〉
【 Next Page|目指すのは、愛される人形づくり 】

この記事をPost&Share
X Facebook