国東だけで育つ「七島藺」の鍋敷き。
七島藺工芸作家・岩切千佳さん | Page 2
身近なものの背景に広がる、尊い仕事を知ってほしい。
「ミカンやタマネギを入れて吊るすと、めっちゃかわいいんですよ」と岩切さんが見せてくれたのは、ワインボトルや日本酒の瓶を入れて持ち運ぶ七島藺のボトルバッグ。大小並べて吊るせば、さらにかわいい! 人気の鍋敷きはサイズが3種類。
「鍋やヤカンを置いたときに編んだ部分が見えるよう、少し大きめを選ぶのがおすすめです」
「工芸品をつくるときは、2軒の農家さんの七島藺を使い分けています。円座はこの農家さんの七島藺、香りを出したいときは別の農家さんのもの……というように。田んぼが違うと香りや強さも違うんです」
そう言いながら円座をつくり始めた岩切さん。半分に割いた七島藺の端を固定金具に留めたら、全体を水で湿らせて、もう一方の端を引っ張りながら力いっぱい編んでいきます。ひと編みごとにギュギュッ、ギュギューッと茎が擦れる音。そんなに力を込めたらちぎれてしまうのでは……と心配になるほどです。
「手ではなく全身の重心を後ろに倒して、体全体で引っ張ります。大丈夫ですよ、七島藺は細くても強い。とても強いので」
そんな岩切さんの出身は宮崎。昔からものづくりが大好きで、大学は美術を学べる別府の大学を選びました。15年前、縁あって国東に移住したものの、職場で手に大ケガをしてしまいます。そのリハビリとして始めたのが七島藺の工芸品づくり。
「最初はただただリハビリのためでしたが、続けるうちに“この仕事一本で生きていこう”と決心しました。一番のきっかけは、七島藺の生産農家さんの仕事を間近で見続けたこと。七島藺というすばらしい文化をもっと知ってほしい。それには農家さんの姿を、目に見えるかたちで世の中に伝えないとダメだなと思ったんです」
誰でも手に取りやすい身近なアイテムをつくったり、七島藺の植え付けや収穫などの作業そのものをイベントにしたり……と、一歩ずつ地道な活動を続けた岩切さん。次第に興味を持つ人が増えたと話します。たとえばJR九州のクルーズトレイン〈ななつ星in九州〉では、2018年から、毎週車内で七島藺の小物づくりのプログラムが行われているのです。
「色で、香りで、触り心地で、人の気持ちを落ち着かせてくれるのが七島藺。鍋敷きもランチョンマットも、使えば使うほど魅力を実感できると思うんです。そして、できれば、ものの背景にある農家さんの仕事にも思いを馳せてもらえたら。いつもそう願っています」