![鶴と亀のわら細工](https://libs.edit.pref.oita.jp/wp/wp-content/uploads/2021/09/19094534/series-jikan-002-paged3-1080x540.jpg)
平安時代から1000年以上変わらぬ
「田染荘の田園風景」 | Page 3
水田オーナー制度で、全国にファンを増やす
地区の家を1軒ずつ回って景観保存の意義を説明し、乗り気でない人の意見にも耳を傾けた河野さんの尽力もあり、集会で圃場整備を行わないことが決定。すぐに荘園の里推進委員会が発足し、水路や農道の整備を進めると同時に都市農村交流などの活動も活発化しました。
地区の住民全体で御田植祭(おたうえさい)や収穫祭、農家民泊といったアイデアが次々と実現し、日本国内はもちろん、海外からの来訪者も増えたそうです(新型コロナ感染防止のために2020年からはイベントや農家民泊は休止)。
![御神前に供えられた新米](https://libs.edit.pref.oita.jp/wp/wp-content/uploads/2021/09/19094543/series-jikan-002-photo9.jpg)
なかでも評判が高いのが、荘園領主と呼ばれる水田オーナー制度(毎年3月中旬から4月末にかけて募集。定数に達した段階で締め切り)です。荘園の里のイベント招待と荘園米50キロ(最大5回まで分割発送)がセットになった荘園領主型と、荘園米60キロ(偶数月に10キロずつ発送)の産直型の2パターンがあり、領主は日本中に拡大しています。
![水田オーナーたちの名前が飾られている](https://libs.edit.pref.oita.jp/wp/wp-content/uploads/2021/09/19094544/series-jikan-002-photo10.jpg)
「田染荘の米はおいしいと評判で、県内の店に卸してもすぐに売れてしまいます。収穫した米は巨大な冷蔵庫で保存管理しているので味は落ちません」と河野さん。
荘園領主を継続する人は、7年目には河野さんが手づくりしたわら細工の鶴もしくは亀が贈られるそうです。しかも河野さんはこの細工をつくるためだけに黒米を栽培し始めたとのことで、荘園を活性化させるために住民がさまざまな努力をしていることがよくわかります。
![鶴と亀のわら細工](https://libs.edit.pref.oita.jp/wp/wp-content/uploads/2021/09/19094545/series-jikan-002-photo11.jpg)
毎年5月下旬〜6月中旬には多くのホタルが見られるという田染地区。ホタルが乱舞するということはつまり、水がきれいな証拠。この水で育った米がおいしくないわけがありません。
![領主に届く荘園米](https://libs.edit.pref.oita.jp/wp/wp-content/uploads/2021/09/19094546/series-jikan-002-photo12.jpg)
行政と地元住民が力を合わせた成果として、2010年には「田染荘小崎の農村景観」が国の重要文化的景観に選定され、翌年には日本ユネスコ協会連盟の第3回プロジェクト未来遺産に認定されました。
そして2013年には「田染荘小崎」を含む国東半島・宇佐地域の「クヌギ林とため池がつなぐ国東半島・宇佐の農林水産循環」が国連食糧農業機関(FAO)によって世界農業遺産に認定されています。
![クヌギ林を利用したほだ場](https://libs.edit.pref.oita.jp/wp/wp-content/uploads/2021/09/19094547/series-jikan-002-photo13.jpg)
この地域にはクヌギ林が多く、原木を利用したしいたけ栽培が盛んです。クヌギの落ち葉は栄養素となって土にかえり、この地に降り注ぐ雨はやがて栄養価の高い湧き水となって、水田農業や沿岸漁業を支えるとともに多様な生態系を育む命の源となるのです。最近よく耳にするSDGsですが、この地に暮らしてきた人々は平安時代からずっと持続可能な農業を行ってきたのです。
![ため池と周りにあるクヌギ林](https://libs.edit.pref.oita.jp/wp/wp-content/uploads/2021/09/19094550/series-jikan-002-photo14.jpg)
初めて訪れたのになぜか懐かしさも感じる田染荘小崎を散策中、脳内でリフレインしていたのは「温故知新」という言葉。先人が見た風景が今なお美しさを保っているのは、彼らの知恵とそれをつないできた田染荘小崎の住民の努力のおかげなのです。
credit text:山縣みどり photo:白木世志一