シブくてかわいいレトロなまち・別府。
宇賀なつみはどう歩く?
「私の旅の必需品は、本。それも仕事や勉強のための本じゃなくて、小説。訪れた土地が舞台になっている小説を読んで、頭の中まで旅にどっぷり浸りたいんです。まちの本屋さんにふらっと寄って探してみようかな」
その土地に縁のある本を読んで、心も体もしっかり旅を味わう。パソコンは閉じる。東京での日々の続きはしない。旅好きなフリーアナウンサー宇賀なつみさんの過ごしかたは、とてもシンプルでした。
宇賀さんが訪れたのは温泉天国・別府。観光産業の最盛期だった1970年代やそれ以前の昭和の名残りを、まちのいたるところで目にすることができます。“別府のレトロ”を探しに、本を持って旅に出ました。
巣ごもりしたい、くつろぎの温泉宿〈山田別荘〉
緑に囲まれた砂利敷きのお庭を抜けると、昔ながらの日本家屋が見えてきました。今回、宇賀さんが宿泊する温泉旅館〈山田別荘〉です。
出迎えてくれたのは、明るく快活な女将の山田るみさん。
「先々代である曾祖父の山田英三が、1930年にこの建物を建てました。元々は山田個人の別荘だったんですけど、私の祖母が旅館にしたんです。基本的なつくりは昔のままなので、ノスタルジックな雰囲気を味わっていただけます。雨戸がなくて風が吹くと窓がガタガタ鳴るんですけど、それもまた一興だと思ってもらえれば(笑)。どうぞ、ごゆっくりお過ごしください」と山田さんは話します。
「歩くとギシギシ鳴る廊下や急勾配の階段など、昔遊びに行ったおばあちゃんの家を思い出しました。初めて来たのに、どこか懐かしい感じがする」(宇賀さん)
「大型リゾートホテルが多い別府の中で、〈山田別荘〉はこぢんまりとした趣ある宿。時間の流れがゆったり感じられるから、巣ごもりするのにぴったりですね。執筆や読書もはかどりそう」
さっそく読書にふける宇賀さん。ぽかぽかの陽気にこたつで読書は、眠気に誘われそうな予感。リフレッシュするために、露天風呂に向かいます。
多彩な泉質と豊富な湯量を誇る別府ですが、〈山田別荘〉の内風呂と露天風呂でも泉質の違いを楽しめます。
「別荘の裏手に泉源(源泉)がひとつ、少し離れたところにもうひとつ別の泉源があるんですよ。内風呂はリュウマチや神経痛によい硫酸塩・炭酸水素塩泉で、柔らかな手ざわりの湯。露天風呂は炭酸水素塩・塩化物泉で、筋肉や関節のこわばりにいいほか、湯上りの肌がしっとりしているのを感じられますよ」(山田さん)
異なる泉質の温泉に交互に入ると、効能をより効果的に取り込めるという“機能温泉浴”を試せるのがうれしいポイントです。
「大好きな温泉にも入れたことだし、ちょっと周辺を散策しよう。行ってきます!」(宇賀さん)
小さくてかわいい、まちのシンボル〈別府タワー〉
まちに出かけると、目に飛び込んできたのは〈別府タワー〉。実は〈名古屋テレビ塔〉〈通天閣〉に続き、日本で3番目に建てられた歴史深い高層タワーなんです。
数多くの鉄塔を手がけ、日本で初めて耐震構造を取り入れた建築家、内藤多仲によって設計されました。“塔博士”の異名を持つ彼はのちに東京タワーも手がけています。
「まさにTHEレトロ! 小さいけど、どっしり構えている感じがかわいらしいですよね。まだ定番の別府しか知らないので、これからどんなレトロに出合えるんだろう? わくわくします」(宇賀さん)
別府っ子がこよなく愛する思い出の味がここに。
創業100年以上の〈友永パン屋〉
旅先では食べ歩きを楽しむこともあるという宇賀さん。いつもは串ものを買ってビールを飲むことが多いそうですが……。
今回は、大正5(1916)年の創業以来、地元の人たちに愛され続けている、別府の名物店〈友永パン屋〉でおやつタイム。
〈友永パン屋〉の看板商品で別府っ子がこよなく愛するあんぱんは、こしあんかつぶあんを選べます。また、人気のバターフランスも、一般的なバターフランスとはまったくの別物なのだとか。
さて、宇賀さんが選んだのは……。
宇賀さんの今日の気分は、バターフランス120円(税込)でした。
「縦長のフォルムでハードなタイプをイメージしていましたが、まんまるでふかふかの生地! 表面に軽くお砂糖がまぶしてあるからザクッとした食感と、溶けたバターが底に溜まって固まったカリッとした食感のハーモニーも楽しくて。芳醇なバターの香りもたまりません。なんだろう、やさしい気持ちになる」と、行列に納得する宇賀さん。
おいしいパンも、新たな食べ歩きのリストに加わったようです。
お酒好きを誘惑するお店が並ぶ、
日本最古の木造アーケード〈竹瓦小路〉
別府のレトロを巡る散歩もいよいよ終盤。宇賀さんの大好きなお酒を楽しめるお店へと向かいます。
途中で見つけたのは、1921年に完成した、現存する日本最古の木造アーケード〈竹瓦小路〉。全長約60メートルのアーケードには、味わい深い居酒屋やスナックが並んでおり、一気に昭和へタイムスリップしたかのようでした。