老舗文具店〈明石文昭堂〉が
別府ならではのサブスクを始めた理由 | Page 2
親子2代で別府の文化をつないでいく
〈湯けむり文具函〉とは、文具を通じて別府の文化や歴史をつないできた〈明石文昭堂〉が企画する文具のサブスクリプションです。店のオリジナル商品や厳選文具だけでなく、別府発の雑貨や食品、同地の歴史・文化を伝えるパンフレットが詰まったセレクトBOXが年に4回届く仕組みとなっています(空コース26400円、山コース52800円、海コース79200円の3コース。海コースのみ限定200セット、残り2コースは限定50セット。すべて送料込み)。
“紡ぎ、繋ぎ、残す”をテーマにして、BOXに入れる商品を中心となって選んだのは4代目として店を手伝う、娘の佳子さん。別府特産の竹細工や温泉でスチームドライしたドライフルーツなど別府らしさが感じられる商品ばかりです。
「小さな文具店が95年間も続けてこられたのは、地元を大切にしてきたからだと思います。〈湯けむり文具函〉は、お客さまとこれからもつながるため、“湯けむりの立ちのぼる別府から心地よさを届けます”という思いで商品をひとつずつ選んでいます」と佳子さん。
「購入する方がご自身でお使いになるのはもちろん、これからもつながっていきたい方に贈ったり。進学や就職で地元を離れた方に贈り物として差し上げるのもいいと思います。懐かしい別府の空気を味わっていただけるはずだし、心地よさを体験していただけたらうれしいです」と言う佳子さん自身も県外での生活を経て、帰郷したひとり。
さまざまなオリジナル商品を企画・実現するのに奔走する彼女は、「仕事のおかげで多くの方と知り合えて、まさにご縁を感じます。別府駅前に立つ油屋熊八像の見事なバランスの秘密など地元の私でも初めて知ったこともありました。こういう体験をして、生まれ育った別府らしさ、大分らしさを次の世代に“つなぐ”ことが本当に大事だと感じています。子どもが産まれてから一層、“つなぐ”意味を意識するようになりました」とにっこり微笑みます。
実は〈湯けむり文具函〉は、“別府の文化をつなぎたい”、そして“多くの人々に別府を訪れてほしい”という3代目社長の思いから生まれたもの。きっかけはコロナ禍でした。
県をまたいでの移動が制限されるなか、事業者の大半がサービス業である別府の温泉街は大打撃を受けていました。このままでは別府がダメになると危機感を抱いた泰信さんは、「我々、地元の人間が宿泊しないといけない」と懇意にしている鉄輪の宿〈湯治柳屋〉に足を運びました。泰信さんは書斎がついた部屋に逗留。温泉に入りリラックスしてこの書斎を使ったときにひらめいたのが、〈湯けむり文具函〉だったのです。
春夏秋冬、大分や別府の香りを運んでくる商品を使うと、五感で別府が感じられ、クリエイティブな発想が湯けむりのように湧き続けるかもしれません。
*価格はすべて税込です。
credit text:山縣みどり photo:白木世志一