お菓子を通して文学の世界を体験する!?
湯布院の菓子工房〈マチカ〉が始めた新たな取り組み | Page 2
お菓子を食べながら文学の世界を体験
そんな〈マチカ〉が2022年から新たな試みに挑戦。文学作品をお菓子で楽しむ「食べる文学」プロジェクトをクラウドファンディングサイトに立ち上げました。
このプロジェクトが生まれたのは、中国茶会での体験がきっかけだったそう。瞑想から始まり、次に茶葉を観察しながら香りを楽しみ、最後にお茶を味わう。この五感を駆使してものを味わうという体験から、食べることを通して感性を豊かにできるお菓子づくりに興味が湧いたと言います。
そこで今回、髙見さんがお菓子と同じように大好きな読書と結びつけるというアイデアが浮かび、本を読むことが苦手な人でも文学を目や舌で楽しめるようなお菓子の開発がスタートしました。
第1弾のテーマに選ばれたのは、宮沢賢治の『注文の多い料理店』。2人の紳士が森の中をさまよい見つけた西洋料理店の正体は、人間が西洋料理として山猫に食べられる店だった……という物語です。
同作品に決めた理由を髙見さんは、「クリームを塗る、塩を振りかけるなどのお菓子に通じるシーンが多く、また誰もが一度は耳にしたことがあるであろう有名な本なので、親しみやすいかなと思いテーマに選びました」と話します。
そうして、構想段階から約1年をかけてお披露目された〈食べる文学「注文の多い料理店」〉。国産小麦粉でつくった紳士のクッキーにカルピスバターで作ったバタークリーム、香水に見立てたかぼすのコンフィチュール(ジャム)、そして塩をのせていただく工程は、まさにお話の中で出される“注文”の順番どおり。
また、今回は大分県内のお店とのコラボレーションも行っています。かぼすのコンフィチュールは、別府市の老舗旅館〈冨士屋ギャラリー 一也百(はなやもも)〉の温泉コンフィチュールを採用。鉄輪(かんなわ)温泉の湯けむりを活かし、低温スチーム製法でつくられた一品は素材の酸化が少なく、栄養価や旨み・甘みも増すといいます。
さらに、セットになったオリジナルの冊子や、外箱のデザインにもこだわり、お菓子の枠を超えた新しい商品ができあがりました。
製作期間に中は、箱のサイズや瓶の大きさなど、細かい部分がなかなか決まらず苦労することもあった一方で、イメージにぴったり合うイラストやデザインが仕あがったときは本当にワクワクしたと、髙見さんは完成までの日々を振り返ります。
1月下旬からスタートした商品化のためのクラウドファンディングは、約3週間で目標金額に到達し、本プロジェクトの始動が正式決定。すでに募集は終了していますが、6月頃からは一般販売も予定されています。
最後に、気になる次回作を髙見さんに聞いたところ、「年内は第1弾の製作で手一杯になりそうなので、数年後に第2弾を実現できたらと思っています。それまで楽しみにしていてください」ということでした。
お菓子を通じて文学の世界に触れる。〈マチカ〉の活動に期待が高まります。
*価格はすべて税込です。
credit text:柿崎真英