料理が映える“幻の焼物”、臼杵焼。
陶芸家・宇佐美裕之さん
200年の時を経て蘇った、臼杵メイドのうつわ。
「幻の焼物がある」と聞いて、やってきました大分・臼杵(うすき)。噂によれば「臼杵焼」と呼ばれるその白磁は、真っ白でかわいくてエレガントで、フランスのアンティークのような懐かしさもあるらしい……どんなうつわなんだろう。ドキドキ。
大分県の東海岸に位置し、国宝の石仏や有機農業が有名な臼杵。まず訪れたのは〈石仏観光センター・郷膳うさ味〉です。お目当ては、有機野菜たっぷりの限定ランチ。焼紫大根に紫キャベツのクミンナムル、シャキシャキの人参ラペに葡萄入りのサラダ……色とりどりの野菜料理が、蓮の花びらみたいな白い皿に縁取られ、まるで1枚の絵のような美しさ!
実はこの白いうつわが「臼杵焼」。手で触れるとするするっと滑らかで心地よく、何度も撫でたくなってしまうほど。
「うつわは料理を盛ってこそ生き生きするもの。器は料理の額縁――というのが、僕らの信念です」と語るのは宇佐美裕之さん。臼杵焼の工房〈USUKIYAKI研究所〉の代表を務めると同時に、料理人としても活躍中。つまり「うつわのつくり手」であり、「うつわの使い手」でもあるんです。
この美しい臼杵焼がなぜ“幻の焼物”と呼ばれるのか、いま、どんなふうにつくられているのか。俄然知りたくなって、工房に案内してもらいました。
「臼杵焼は、いまから約200年前の江戸時代後期、わずか10数年だけつくられていた焼物です」と宇佐美さん。
臼杵藩の御用窯、つまり殿様に献上するための焼物をつくる窯として始まり、窯場が末広地区にあったことから末広焼と呼ばれました。長崎の島原、福岡の小石原、宮崎の小峰といった九州の焼物産地から職人を迎え、磁器と陶器の両方を焼いていたのだとか。ところが残念なことに、長く続かず途絶えてしまったのです。
そんな幻の焼物に再びスポットがあたったのが20年前。大阪で陶芸活動をしていた宇佐美さんが実家のある臼杵に戻ってきたときのことです。骨董好きな知り合いが持っているうつわの中に、末広焼の磁器皿がありました。
「花びらの形をした白磁のうつわを見て、“アイスクリームをのせたらすてきだろうな”と、ふと思ったんです。江戸時代の和食器だけど、いまの暮らしの中で使う風景をごく自然に思い浮かべることができました」
「これなら自分たちの世代のうつわとして蘇らせることができそうだ」とロマンを感じた 宇佐美さんは、同郷の陶芸家・薬師寺和夫さんとふたりで復興プロジェクトを立ち上げます。「輪花」と呼ばれる伝統的なモチーフをひとつの手がかりとして、新たなうつわの創作をスタート。「臼杵焼」と名づけました。