料理が映える“幻の焼物”、臼杵焼。
陶芸家・宇佐美裕之さん | Page 3
「料理の額縁になるうつわ」を目指して
さて、最初に宇佐美さんが口にした「うつわは料理の額縁」という気になるひと言。そのおハナシをもうちょっと詳しく聞きたくて、再び〈郷膳うさ味〉へ向かいます。
「まず臼杵にはおいしい食材がたくさんあるんです。果物みたいに甘く味の濃い有機野菜を育てる生産者も多いし、古くからの伝統的な食文化も大切にされている。そういう素材を生かした料理を、うつわでも引き立てることができたら。そう思いながらデザインを考えています」
主役はあくまでも料理。つくりたいのは、料理を盛って初めて完成するうつわ。でも、だからといって、脇役に徹した超シンプルな器であればよいというわけではありません。
「料理を盛ったときは主役を引き立てる背景になるのが望ましい。でも、うつわ自体の愛らしさというか、使うたびにワクワクするような華やかさもやっぱり欲しいんです。そんなうつわを模索した答えのひとつが、花びらの形でした」と宇佐美さん。
「虫が花に集まるように、人間も本能的に花の形に惹かれるんじゃないかって思うんですよね」
見た目はやわらかで女性的な臼杵焼ですが、実際に使うと適度な厚みと重さがあって、たのもしさや実直さも備えています。
「臼杵の人には昔から、“質素倹約”という気質があって、いまもそれがなんとなく残っている。臼杵焼にも、地に足のついた感じがあるような気がします」
そして何より、型打ち成形がもたらすわずかなゆがみがチャーミング。
「その、不均一なところが魅力なんです。もっとピシッとつくるやり方だってあるんですけど、手でつくっているからこその味わいを大切にしたい。食器棚に並ぶ中からつい手にとってしまうのは、ひとつひとつの器に、“この子にしかない個性”がきちんとあるからだと思います」
うつわの話をしながら、中国茶用の小さな茶杯に烏龍茶を淹れたり、蓮をモチーフにした料理の準備をしたり。そんな宇佐美さんにもうひとつ聞いてみた。料理人として考える、いいうつわって何ですか?
「使い手として言うならば、“これ盛ってみよう、あれ盛ってみよう……”と思い浮かぶのがいいうつわだと思います。そして、使う人によって、いろんな姿や表情が引き出されるうつわならなおいい。自分でうつわを買うときはそういう目で選ぶことが多いです。そういえば、僕が最初に臼杵焼(末広焼)に出合ったときの印象も、“アイスクリームに合いそう”でしたね!」
大分県臼杵市生まれ。大阪で陶芸を学んだあと、臼杵に戻り〈石仏観光センター〉の代表を務めると同時に、陶芸家の薬師寺和夫とともに臼杵焼復興プロジェクトを立ち上げる。現在は〈USUKIYAKI研究所〉主宰。〈郷膳うさ味〉の運営にも携わるほか、自宅兼ギャラリー〈ギャラリーSARAYAMA〉にて料理イベントやうつわの展示会を開催。
*価格はすべて税込です。
credit text:輪湖雅江 photo:白木世志一