城下町・杵築でつくる“物語のあるうつわ”。
陶芸家・坂本和歌子さん | Page 2
毎日使いたくなる“スタメン”なうつわをつくりたい
軽くて強くて品がいい。そんなティーポットやカップは、陶器と磁器の中間の性質をもつ「半磁器土」でつくられています。
「陶器のやさしさと磁器の冷たい美しさを併せもつところが好きで、学生のときからずっと使っています」と話す坂本さんに、うつわをつくり始めたきっかけを尋ねたところ、「好きなうつわ作家がいたわけでも、誰かに弟子入りしたわけでもなくて……」と意外な答えが返ってきました。
「昔から美術が好きで、高校でデザインを学び、大学で陶芸を専攻したんですね。そしたら楽しくておもしろくて夢中になってしまって、学校に泊まりこんで夜中じゅうつくり続けたこともしばしば。卒業後、いったん事務系の仕事の就いたものの、ちょっと時間が空くたびに陶芸のことを考えている自分に気づいて、26歳のときに独立しました」
力を込めて練りあげた土をろくろの上にドンと置いて、「最初はマグカップをつくりますね」「次はカフェオレボウル」と次々にうつわの形を生み出す坂本さん。
「大切にしていることですか? めざしているのは毎日使ってもらえるうつわ。つまり“スタメンでいられるうつわ”です」
それを具体的に言うならば、まず“丸み”。
「見たときに美しさを感じる丸みと、持ったときの心地よさをもたらす丸み。両方を大切にしたいんです。それから、重いと手に取る回数が減りがちだと思うので、適度な軽さ。そのうえで、使っていて安心できるどっしり感も欲しい……よくばりですね」
「色はやっぱり白が好き。白はうつわのフォルムをきちんと見せてくれるから。そして、真っ白ではなくて、ちょっと温かみのある白に惹かれます」
つるんとした滑らかな白は、自ら調合した釉薬によるもの。時々、カップの縁の釉薬だけが少しかすれて、素地の土色が見えているのもカッコいいのです。
紅茶も卵料理も映える白いうつわとは別に、4~5年前からつくり始めたのがブルーのうつわです。
「何年か前に沖縄を旅したときの印象が忘れられなくて。深い青から鮮やかな青まで、いろんな青がグラデーションになった“うみいろ”のうつわをつくりました」
そういえば“うみいろ”という色名も含め、どのうつわにもチャーミングな名前がついているのが印象的。
「物語の中に登場するうつわをイメージして名前をつけています。うつわを使ってくれる人の日常に小さな物語が生まれるような、そういう存在になれたらいいなといつも思っているんです」