「民布」という文様のテキスタイルでつくった大ガマグチ
連載|日常を楽しくする、大分の手仕事

伝統の型染でつくる、新しいテキスタイル。
〈よつめ染布舎〉の布小物。

Posted 2023.01.26
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「グラフィックデザイナーの型染」を訪ねて国東半島へ。

「“えっへん”ってならないように謙虚な気持ちで、でも“新しいもの好き”な人にも興味をもってもらえるよう前向きに。毎日毎日そんな気持ちで布を染めています」

そう話すのは、型染作家でデザイナーの小野豊一さん。大分県国東市(くにさきし)の染工房〈よつめ染布舎(そめぬのしゃ)〉を主宰しながら、テキスタイルデザインやグラフィックデザインの仕事も手がけています。

型紙に糊を塗る作業中
〈よつめ染布舎〉の工房で。ここからどんなテキスタイルが生まれるのでしょう?

小野さんがつくるのは、例えば「型染」と呼ばれる伝統技法を使ったがまぐちのポーチです。鮮やかだけどやさしい色に心が躍り、おばあちゃんの着物みたいな懐かしさとポップな愛らしさを備えた文様に胸がキュン。リネンや木綿を使った生地がまた気持ちよくて、何度でも手触りを確かめてしまいます。柄や雰囲気が一点一点全部違うのもうれしい!

〈よつめ染布舎〉小野豊一さん
小野豊一さんは1982年広島県生まれ。実家は明治28(1895)年創業の老舗染工房ですが、自分自身のデザインを形にしたい、と独立。2014年に〈よつめ染布舎〉としての活動を始め、2015年に大分県国東市へ移住してきました。手にしているのが型染に使う型紙。もちろん小野さんの手づくりです。

そんな〈よつめ染布舎〉の工房が建っているのは、国東半島の北の突端に位置する国見町伊美(いみ)。工房の目の前には小さな土手があり、生い茂る草を踏みしめながら上ってみると、目の前には伊美川がゆるゆると流れています。200~300メートル歩けば穏やかな海が見え、平安末期に創建されたと伝わる神社も。自然と伝統を身近に感じる場所でものづくりが行われているのです。

伊美川
工房を訪ねて国東半島北部の集落・伊美地区へ。目の前に伊美川が流れ、すぐ近くには伊美別宮社も。神社では毎年9月、宝永2(1705)年から恒例になっているという流鏑馬(やぶさめ)の神事が行われます。
〈よつめ染布舎〉の入口
〈よつめ染布舎〉の工房。入口には「前挽き」と呼ばれる製材用のノコギリを使った看板が掲げられています。

「型染は鎌倉時代から続く日本の伝統的な染色技法です。特徴は、型紙を使って文様をつけることと、糊を使って染めること。糊はもち米と糠(ぬか)と石灰石をまぜてつくります。この防染糊を布の上に置いてから染めると、糊の部分には染料が入っていかず、白く染め抜かれる――という特徴を生かしたやり方です」。

ひとつひとつわかりやすく説明してくれる小野さんの後について、工房内へ。

うわっ、カッコいい! ずどんと細長い倉庫のような空間の天井には、さまざまな色の布が吊られています。およそ5メートルの長い生地が細い竹の道具でピーンと張られた姿は、巨大な凧のようでもあり船の帆みたいでもあり。

工房内の様子
工房内の様子。天井には染め終わった布や制作途中の生地が何枚も吊るされています。「伸子(しんこ)」と呼ばれる細い竹の棒を使って凧のように張られているのが特徴です。
青や黄緑、オレンジなどカラフルな色で染めた生地
湯けむりが立ちのぼる別府・鉄輪(かんなわ)の景色を図案化し、カラフルな色で染めた生地。温泉のまちにぴったりの手ぬぐいになる予定です。

「僕の実家は広島の染め物屋で、神社の幟(のぼり)や神楽の舞台幕、お店の暖簾(のれん)などをつくっているんです」

いずれは家業を継ごう、そのためにも多角的なデザインを身につけたい。そう考えた小野さんは、専門学校でグラフィックデザインを学びます。

さらに岐阜県の〈吉田旗店〉で見習い修業をした後、「再び実家の仕事を手伝っていましたが、もともと絵が好きだったこともあって、“自分の描きたい絵で布を染めよう”という気持ちが強くなりました。悩んだ末に、実家の染工房は弟に任せて独立。陶芸をしている奥さんとふたりで国東へ移住してきたんです」。

ペンや筆の形をした布に色をつけるための道具
工房内には布に色をつけるための道具がきちんと整理されています。

こうして、テキスタイルデザインから始める染工房をスタートさせた小野さんは、「染めを暮らしの中に」をモットーに掲げます。手ぬぐいや暖簾、イージーパンツやクッションカバー……さまざまなアイテムを彩る文様の中には、国東半島のお祭りや神事をモチーフにしたものも。

時にモダンで時にユーモラスな〈よつめ染布舎〉のデザインは、大分から全国へと広がって、2022年には国内各地で15回も展覧会が開かれたほど。手仕事ファンだけでなく、グラフィックやアート好きの暮らしにも、じわじわと染みわたっているのです。

〈よつめ染布舎〉のテキスタイルでつくられた大小のガマグチ
左・「民布」という文様のテキスタイルでつくった大ガマグチ。単色・納戸色、綿100%、幅22×高さ15センチ・5830円。右上・カード&コインケースにもちょうどいいサイズ。ガマグチ「花布」は単色・黄色、表地はリネン100%。右下・ガマグチ「民布Ⅱ」。多色・緑、各幅14×高さ11センチ・4180円。
窓にかけられた麻の暖簾
「筒描(つつがき)」でつくった麻の暖簾。筒描は、型を使わずフリーハンドで糊を線引きすることで防染する技法です。生地は苧麻(ちょま)を使った透け感のある白麻、文様は陶器を描いた「櫛引陶(くしびきとう)」。幅約88×高さ130センチ・35200円。
流鏑馬をモチーフにした絵柄の手ぬぐい
人気の手ぬぐい。中央は伊美別宮社で秋に行われる神事、流鏑馬をモチーフにしたもの。90×30センチ・2420円。

型紙の上に糊をを塗る作業
【 Next Page|型染の工程を拝見! 】

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