真っ白な霧が一面を覆い尽くす
「由布院の朝霧」
なかなか出合うことのできない、大分県の絶景を巡る旅の第1回目は温泉地として名高い由布院から。寒い冬の早朝にしか現れない朝霧が、幻想的なシーンをつくり出します。
条件が揃った時だけ現れる朝霧とは?
師走の午前7時。周囲が明るくなる頃を見計らい、思い切って部屋のカーテンを開けてみる。雪が降っているわけでもないのに、外は真っ白な別世界。遠くに見えるはずの由布岳の姿はもちろん、目の前の木すら見えないほどに…。その正体を探ろうと窓を少し開くと、流れ込んできた真冬の冷たい空気に思わず目が覚める。
「今晩は冷えるから、明日は朝霧が見られるかもしれませんね」
思い出すのは、昨晩、宿の女将さんと交わした会話。
「この辺りは由布院盆地の底のほうなので、目の前が真っ白になるんですよ」
山がちで変化に富んだ地形の大分県には、山間の川沿いに小さな盆地が点在。放射冷却により、朝霧が見られることで知られます。なかでも、霧の濃さで群を抜いているのがここ由布院なのです。
朝霧が出るのは秋から冬にかけての早朝。前日の日中は晴れて暖かく、夜に冷え込んだ翌朝、それも快晴で風がないのが条件だとか。「日中寒くなりすぎても、温度差が小さいので出ないんですよ」と女将さんは言います。
しかし幸運に恵まれ、出合うことができたならば、それは幻想的な体験となること間違いありません。見知った景色からは一転、真っ白な霧にすっぽりと包み込まれたまちはまるで別世界。おぼろげな視界や、肌を刺す冷気、時が止まったような静けさが心地よい緊張感をもたらしてくれます。
狭霧(さぎり)展望台と蛇越(じゃごし)展望台、ふたつの高台から見る朝霧も格別です。山間のまちを覆い尽くす霧は、まるで白い湖。かつて由布院盆地は、本当の湖だったという伝説も残っています。
それは、宇奈岐日女(うなぐひめ)という神様が従者の大男に命じて山の一角を蹴破らせたというもの。水が流れ出た湖は盆地となり、その流れは大分川に、そして湖に住んでいた龍の安住の地として金鱗湖(きんりんこ)が残されたといいます。