伝統の型染でつくる、新しいテキスタイル。
〈よつめ染布舎〉の布小物。
「グラフィックデザイナーの型染」を訪ねて国東半島へ。
「“えっへん”ってならないように謙虚な気持ちで、でも“新しいもの好き”な人にも興味をもってもらえるよう前向きに。毎日毎日そんな気持ちで布を染めています」
そう話すのは、型染作家でデザイナーの小野豊一さん。大分県国東市(くにさきし)の染工房〈よつめ染布舎(そめぬのしゃ)〉を主宰しながら、テキスタイルデザインやグラフィックデザインの仕事も手がけています。
小野さんがつくるのは、例えば「型染」と呼ばれる伝統技法を使ったがまぐちのポーチです。鮮やかだけどやさしい色に心が躍り、おばあちゃんの着物みたいな懐かしさとポップな愛らしさを備えた文様に胸がキュン。リネンや木綿を使った生地がまた気持ちよくて、何度でも手触りを確かめてしまいます。柄や雰囲気が一点一点全部違うのもうれしい!
そんな〈よつめ染布舎〉の工房が建っているのは、国東半島の北の突端に位置する国見町伊美(いみ)。工房の目の前には小さな土手があり、生い茂る草を踏みしめながら上ってみると、目の前には伊美川がゆるゆると流れています。200~300メートル歩けば穏やかな海が見え、平安末期に創建されたと伝わる神社も。自然と伝統を身近に感じる場所でものづくりが行われているのです。
「型染は鎌倉時代から続く日本の伝統的な染色技法です。特徴は、型紙を使って文様をつけることと、糊を使って染めること。糊はもち米と糠(ぬか)と石灰石をまぜてつくります。この防染糊を布の上に置いてから染めると、糊の部分には染料が入っていかず、白く染め抜かれる――という特徴を生かしたやり方です」。
ひとつひとつわかりやすく説明してくれる小野さんの後について、工房内へ。
うわっ、カッコいい! ずどんと細長い倉庫のような空間の天井には、さまざまな色の布が吊られています。およそ5メートルの長い生地が細い竹の道具でピーンと張られた姿は、巨大な凧のようでもあり船の帆みたいでもあり。
「僕の実家は広島の染め物屋で、神社の幟(のぼり)や神楽の舞台幕、お店の暖簾(のれん)などをつくっているんです」
いずれは家業を継ごう、そのためにも多角的なデザインを身につけたい。そう考えた小野さんは、専門学校でグラフィックデザインを学びます。
さらに岐阜県の〈吉田旗店〉で見習い修業をした後、「再び実家の仕事を手伝っていましたが、もともと絵が好きだったこともあって、“自分の描きたい絵で布を染めよう”という気持ちが強くなりました。悩んだ末に、実家の染工房は弟に任せて独立。陶芸をしている奥さんとふたりで国東へ移住してきたんです」。
こうして、テキスタイルデザインから始める染工房をスタートさせた小野さんは、「染めを暮らしの中に」をモットーに掲げます。手ぬぐいや暖簾、イージーパンツやクッションカバー……さまざまなアイテムを彩る文様の中には、国東半島のお祭りや神事をモチーフにしたものも。
時にモダンで時にユーモラスな〈よつめ染布舎〉のデザインは、大分から全国へと広がって、2022年には国内各地で15回も展覧会が開かれたほど。手仕事ファンだけでなく、グラフィックやアート好きの暮らしにも、じわじわと染みわたっているのです。