伝統の型染でつくる、新しいテキスタイル。
〈よつめ染布舎〉の布小物。 | Page 2
美しい文様を生み出す「型染」のワザを拝見!
「今日は『カラスの群れ』という文様の型紙を使いましょうか」
そう言って、職人の松永昌也さんとともに生地や型紙、糊の準備を進める小野さん。
「カラスの文様は、この仕事を始めた初期の頃のデザインですね。スカーフやTシャツ、イージーパンツなどいろんなアイテムに使っている定番です」
まずは長い長い作業台の上に木綿生地をのせ、アイロンをかけてシワをなくす作業から。生地の両端には、乾燥させるときのために木製の角材が取り付けられています。この上に、1枚の型紙を使って文様をリピートしていくのです。
「生地の端に型紙をのせ、その上から糊を置いていきます」と小野さん。糊を「置く」、色を「差す」、染料を「引く」という業界用語にワクワクしつつ、作業を見守ります。
どろっと粘りのある黄土色の糊をかきまぜるのは大きな杓子(しゃくし)。小野さんの故郷である広島の宮島でつくられている伝統的な手仕事です。
「たまたま使ってみたら、とても勝手がよかったんです」
全体に糊を置いたところで型紙を外します。慎重に慎重にふたりのタイミングを合わせてそーっと外すと、生地の上には糊が残り、カラスの文様が“白抜き”の状態で現れました。
糊が乾いたら、その上から染料を含ませた刷毛を引くようにして生地を染色。その後、乾燥させてお湯で洗うと糊が落ちます。さっき”白抜き”だった部分は色に染まっていますが、糊を置いた部分には染料が入らず白く残るというわけです。
ひと段落したところで周りを見渡すと、工房の壁にたくさんの型が吊るされているのが目に入ります。植物の柄、風景のようなモチーフ、幾何学的なデザイン……。これらの文様はどんなふうに生み出されているのかをたずねると、「思い浮かべたり見たりしたモチーフを、抽象化させることが多いですね」と小野さん。「抽象化することで、いろんな人のいろんな用途になじむデザインになるからです。カラスのように具体的なものを描くときも、できるだけ抽象化というか図案化しています」と言います。
「例えばこれは、水の動きを表した『めぐみ』という柄。太陽と雲があって雨が降る。雨は土に染み込んで川から海へ流れ出て、蒸発してまた空に還る。そんな水の循環を表したデザインです」
「絶え間なく自然と対峙している日常から生まれた文様なのかもしれませんね。国東に来て7年になりますが、僕らが住んでいる伊美は特に、海も山も近い。どうしたって、人の活動よりも自然の姿に目が向いてしまうんです。知らず知らずのうちに享受した自然のめぐみが、デザインに表れているんでしょう。僕の型染は、言葉で表しづらい大切なことをビジュアルにして伝える仕事なのかなって、最近そんな気がしています」