赤と黒の大胆な水玉模様のテキスタイル
連載|日常を楽しくする、大分の手仕事

伝統の型染でつくる、新しいテキスタイル。
〈よつめ染布舎〉の布小物。 | Page 3

Posted 2023.01.26
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モダンなぽち袋やカレンダー。和紙の小物も人気です。

赤と黒の水玉模様のテキスタイル
赤と黒。大胆な水玉模様のテキスタイルは「NAMIMARU」。

「このテキスタイルは座椅子に張る予定なんです。2023年4月にオープンする由布院の旅館のために準備しているプロダクトで、背もたれと座面で色を変えようと思っています」

そう話す小野さんの手元にあるのは、真っ赤な生地を真っ赤な水玉模様が埋め尽くしているテキスタイル。水玉のいくつかに黒い染料を差していくと、布の表情が少しずつ変わります。

手描きで黒い色を差す
赤い水玉を型染したところへ、手描きで黒い色を差す小野さん。「黒くする場所はランダム。ひとつひとつ感覚で決めています。『NAMIMARU』はもともとあったデザインですが、今回のプロジェクトに合わせて配色を変えたんです」

「普段の制作以外に、オーダーでテキスタイルをつくることもあります。今回の旅館プロジェクトでは、ロゴマークなどのグラフィックも手がけているんですよ。〈よつめ染布舎〉の強みはデザインもできること。飛び抜けてすぐれた技術を持っているわけではないけれど、デザインの力がある。型染だけやっているのでは需要も限られるし、たぶん食べていけません。僕がデザインをして、制作はほかの方に任せるというつくり方をするアイテムも、これからはあってもいいと考えています」

「ずっと型染を続けていくための、いろんな可能性を探りたい」

そう話す小野さんと一緒に、工房の隣にあるギャラリー〈すずめ草〉へ。〈よつめ染布舎〉のアイテムのほか、小野さんの妻である陶芸家・岡美希さんが手がける陶器やオブジェが並んでいます。

ギャラリー〈すずめ草〉の内観
〈すずめ草〉は、〈よつめ染布舎〉のアイテムと岡美希さんの陶芸作品を販売する予約制のギャラリー。広い室内には、小野さんが手がけた現代アート作品も展示されています。

「いまは、世界中の誰もがネットを使い、あらゆる物事や情報が均質化している時代。だからこそ、手でつくるものの質感や、きちんとしたアイデンティティを持っているものが理解され、共感され、残っていくはずだと信じています」

そんな話を聞きながらギャラリーを眺めていると、土地の風土や風習を取り入れたユーモラスなデザインが目に飛び込んできます。

〈よつめ染布舎〉の3種類の手ぬぐい
手ぬぐい。上・国東半島の北にある姫島の盆踊りを描いたもの。写真は「タヌキ踊り」。「キツネ踊り」もあります。90×30センチ・2200円。中・国東半島の六郷満山の寺で行われる火祭りを描いた「修正鬼会(しゅじょうおにえ)」。90×35センチ・2200円。下・小野さんの故郷、広島の嚴島神社や大鳥居、鹿などを描いた「嚴島神社」。90×35センチ・2310円。

「型染って、完成したものを目にすることはあっても、どうやってつくられているのかまでは想像しづらい。というか、これが手でつくったものか機械でつくったものか、考えたこともない人だっていっぱいいると思うんです。“手で染めても機械で摺ってもあんまり変わらないんじゃないの?”っていわれても仕方ないなかで、型染のよさをどうやって伝えていくか。それが僕らの課題です」

デザインの力を生かすことや、型染の意匠を取り入れたステーショナリーをつくること、染めの技術を生かした現代アートに挑戦していることも、課題に対する小野さんなりの答え。「同時代の人が共感できるもの」をつくることが大事だと続けます。

型染のデザインを取り入れたぽち袋3種
テキスタイルだけでなく、型染のデザインを取り入れて特殊印刷した紙ものも人気。写真はぽち袋。右・「嚴島神社」。和紙。中・福を招くフクロウを図案化した「双鳥」。和紙。左・縁起のいい文様を散りばめた「宝尽くし」。ハトロン紙。すべて横6.4×縦(閉じたとき)9.8センチ・3枚入り396円。

「機械のものと違って、手仕事や工芸は大量生産ができません。必要な分だけつくって、大量に儲けることもなく、身の丈にあった活動ができる。人と環境がどうやって共存していくかをみんなが気にしている今、技術とエコシステムと楽しさがちょうどいいバランスで成り立っているのが工芸だと思うし、そういうところに同時代性みたいなものが表れるんだろうなと感じます」

〈2023年 よつめ染布舎かれんだ〉
型染の意匠を取り込んだ絵柄をデザインし、特殊な印刷によって型染や版画の風合いに仕上げた〈2023年 よつめ染布舎かれんだ〉。素材は和紙など。月によって紙質を変えています。横19×縦27.7センチ・2200円。

「型染というと、芹澤銈介さんや“民藝”の功績が大きいでしょう? あの方たちが築いたイメージに食わしてもらっている感覚が、僕らには確かにあるんです。でも、頼ってばかりじゃいけない。自分たちにしかできないイメージや、型染への新たな入り口をつくっていかないとだめだなと自分に言い聞かせながら、毎日手を動かしています」

ギャラリー〈すずめ草〉外観
ギャラリー〈すずめ草〉。型染の暖簾が目印です。
Information
すずめ草
address:大分県国東市国見町伊美2525-1
tel:080-8086-1522 ※前日までの予約が必要。
access:大分空港から車で約45分。
mail:yotsume.co@gmail.com
小野豊一さん
Profile 小野豊一

1982年広島県生まれ。実家は明治28(1895)年創業の老舗染工房〈豊栄堂染工場〉。2003年に広島芸術専門学校グラフィックデザイン科卒業、翌年から岐阜の〈吉田旗店〉で染め仕事の見習いを続ける。08年より実家で働いた後に独立。14年に〈よつめ染布舎〉を創設、15年に拠点を大分県国東市へ移して工房とギャラリーを新設。

*価格はすべて税込みです。

credit text:輪湖雅江 photo:永禮賢

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