伝統の型染でつくる、新しいテキスタイル。
〈よつめ染布舎〉の布小物。 | Page 3
モダンなぽち袋やカレンダー。和紙の小物も人気です。
「このテキスタイルは座椅子に張る予定なんです。2023年4月にオープンする由布院の旅館のために準備しているプロダクトで、背もたれと座面で色を変えようと思っています」
そう話す小野さんの手元にあるのは、真っ赤な生地を真っ赤な水玉模様が埋め尽くしているテキスタイル。水玉のいくつかに黒い染料を差していくと、布の表情が少しずつ変わります。
「普段の制作以外に、オーダーでテキスタイルをつくることもあります。今回の旅館プロジェクトでは、ロゴマークなどのグラフィックも手がけているんですよ。〈よつめ染布舎〉の強みはデザインもできること。飛び抜けてすぐれた技術を持っているわけではないけれど、デザインの力がある。型染だけやっているのでは需要も限られるし、たぶん食べていけません。僕がデザインをして、制作はほかの方に任せるというつくり方をするアイテムも、これからはあってもいいと考えています」
「ずっと型染を続けていくための、いろんな可能性を探りたい」
そう話す小野さんと一緒に、工房の隣にあるギャラリー〈すずめ草〉へ。〈よつめ染布舎〉のアイテムのほか、小野さんの妻である陶芸家・岡美希さんが手がける陶器やオブジェが並んでいます。
「いまは、世界中の誰もがネットを使い、あらゆる物事や情報が均質化している時代。だからこそ、手でつくるものの質感や、きちんとしたアイデンティティを持っているものが理解され、共感され、残っていくはずだと信じています」
そんな話を聞きながらギャラリーを眺めていると、土地の風土や風習を取り入れたユーモラスなデザインが目に飛び込んできます。
「型染って、完成したものを目にすることはあっても、どうやってつくられているのかまでは想像しづらい。というか、これが手でつくったものか機械でつくったものか、考えたこともない人だっていっぱいいると思うんです。“手で染めても機械で摺ってもあんまり変わらないんじゃないの?”っていわれても仕方ないなかで、型染のよさをどうやって伝えていくか。それが僕らの課題です」
デザインの力を生かすことや、型染の意匠を取り入れたステーショナリーをつくること、染めの技術を生かした現代アートに挑戦していることも、課題に対する小野さんなりの答え。「同時代の人が共感できるもの」をつくることが大事だと続けます。
「機械のものと違って、手仕事や工芸は大量生産ができません。必要な分だけつくって、大量に儲けることもなく、身の丈にあった活動ができる。人と環境がどうやって共存していくかをみんなが気にしている今、技術とエコシステムと楽しさがちょうどいいバランスで成り立っているのが工芸だと思うし、そういうところに同時代性みたいなものが表れるんだろうなと感じます」
「型染というと、芹澤銈介さんや“民藝”の功績が大きいでしょう? あの方たちが築いたイメージに食わしてもらっている感覚が、僕らには確かにあるんです。でも、頼ってばかりじゃいけない。自分たちにしかできないイメージや、型染への新たな入り口をつくっていかないとだめだなと自分に言い聞かせながら、毎日手を動かしています」
1982年広島県生まれ。実家は明治28(1895)年創業の老舗染工房〈豊栄堂染工場〉。2003年に広島芸術専門学校グラフィックデザイン科卒業、翌年から岐阜の〈吉田旗店〉で染め仕事の見習いを続ける。08年より実家で働いた後に独立。14年に〈よつめ染布舎〉を創設、15年に拠点を大分県国東市へ移して工房とギャラリーを新設。
*価格はすべて税込みです。
credit text:輪湖雅江 photo:永禮賢