木工家具屋がつくる“たおれんだるま”。
日田市〈ID HOUSE〉の
ユニークな一品〈不撓楽天達磨〉
誕生のきっかけから見た目まで、
すべてがユニークなだるま界の異端児
「だるま」と聞いてまず思い浮かべるのは、丸みを帯びたふくよかな姿。しかし、大分県日田市にある家具メーカー〈ID HOUSE(アイディハウス)〉がこしらえる〈不撓楽天達磨(ふとうらくてんだるま)〉、通称「たおれんだるま」は、その真逆を行く四角い形が特徴です。
平らな面でどっしりとかまえるその姿は、まるで「絶対に倒れるもんか」と言わんばかりの不屈の魂を感じさせ、見ているこちら側の心にも自然と勇気が湧いてきます。
一切無駄のない完成された形なので、竹田市の「姫だるま」と同じく代々受け継がれてきた歴史ある伝統工芸のひとつなのかと思いきや……誕生は1990年代後半という意外な若さに驚きました。
生みの親は、ID HOUSEを立ち上げた伊藤邦隆さん。子どもの頃からものづくりが大好きだった邦隆さんは、独学でデザインを勉強し、日田市の家具メーカーに入社。商品開発をメインに活躍していましたが、もっと自由な発想で好きな家具をつくりたいという思いから会社員の傍らID HOUSEを立ち上げ、デザインから手がける注文家具を中心に製作していました。
もともとは廃棄する予定だった端材から丸いだるまを削り出そうと思ったのがはじまり。しかし、四角い端材を丸くしようと思うと時間がかかり、簡単にはつくれないとわかり、「じゃあ、四角にしてみよう。そのほうがおもしろい」という発想の転換から、この形のだるまが生まれました。
当初はそのおもしろい形に目をつけた友人の古物店に非売品として置いてもらっていましたが、店を訪れる客から「どこで手に入るのか?」と聞かれることが増えたため、商品化に至ったそうです。
しばらくすると、全国放送のテレビ番組にたおれんだるまが取り上げられる機会があったそう。当時はバブルが崩壊し、日本中が不景気の真っ只なか。そんな厳しい時代に「怯まず倒れない」というメッセージが多くの視聴者に届き、注文の問い合わせが殺到。商売繁盛に、病気のお見舞いに、受験生への贈り物にと、気がつけばID HOUSEの立派な主力商品となりました。
しかし数年前に邦隆さんは病気で他界。現在は新しい家具の製作はしていませんが、妻の由美子さんと息子さんのふたりが邦隆さんの遺志を継ぎ、いまもたおれんだるまの製作を続けています。
「主人が亡くなる前、私たちがだるまを彫っているという話を聞いて、安心していたようです。元気なときに買っておいた木材はまだまだあるし、少しずつでも私たちでつくれたらと思って、続けています」と由美子さんは言います。