植物と別府の温泉で染める
「温泉染」で文化をつくりたい!
〈温泉染研究所〉行橋智彦さん
植物と温泉の組み合わせは無限。
失敗も宝、研究は楽しい!
温泉の源泉数、湧出量ともに日本一を誇る別府市。市内の至る所から、源泉も泉質も違う温泉が湧いています。そんな温泉を、浸かって癒されるだけでなく「染色に使ってみよう!」と取り組んでいるのが、行橋智彦さん。
行橋さんは、東京都出身。かつては、〈旅する服屋さんメイドイン〉として、足踏みミシンと共に全国を旅しながら、その地でしかできない服づくりを続けていました。
使っていたのは、その土地に生えている草木を海水や工業廃水など、その土地らしさのある水で煮出して、染めた布。草木があっても、いい水がなければ染色はできません。旅する服屋としての旅は、染色のためのいい水を探す旅でもありました。
そんななかたどり着いた別府には、数多の魅力的な温泉が湧いていました。ならば「温泉を使ってものづくりがしてみたい」と思った行橋さん。別府に移住し、温泉と植物だけを使う染色を「温泉染」と名づけ、〈温泉染研究所〉として研究を始めました。
最初に取り組んだのは、「旅する服屋さん」の頃から実践している、浸し染め。植物を煮出し、そこに布や糸を浸けて染色する技法なのですが、すべてに植物と温泉を使っているそう。
茜やウコン、柿の葉やビワの葉、お茶の葉っぱなど。そこに、その都度違う温泉を合わせます。温泉で植物を煮出す場合もあれば、水で煮出して染色したあとに、温泉に浸ける場合も。温泉ごとにphや含まれる成分が異なるため、一度として同じ色にはならないといいます。
「10種類の植物と10種類の温泉があれば、100通り。別府は3000近くの源泉があるので、組み合わせは無限にあります。調べる限り、別府が一番多様な温泉が湧いていると思います。それがおもしろいですね」
2016年に移住してから、幾度となく組み合わせを試し、その都度データと試作品を残してきた行橋さん。データも作品ファイルも、すでにかなり膨大な量になっているのですが、「僕のこれまでの研究なんて、まだまだ。本当に一部です」と言います。
そんななか、「これはぜひ見せたい」と、茜を使ったサンプルを見せてくれました。そこにあったのは、暖かみのある豊かな色たち。染めた素材は、コットン、シルク、ウールの3種類なのですが、「合わせる温泉によってこんなに違いが出るの?」と、驚いてしまいました。
「僕の研究の失敗データもおもしろいんですよ。いかに失敗しているかが、本当に財産。その失敗に僕も刺激されるので、いっぱい失敗したいって思うんです。失敗データの蓄積は、僕にとっては宝ですね」
温泉染への研究熱は、止まることがありません。