靴下や手拭いなど「温泉染」の商品
連載|日常を楽しくする、大分の手仕事

植物と別府の温泉で染める
「温泉染」で文化をつくりたい!
〈温泉染研究所〉行橋智彦さん

Posted 2025.01.24
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植物と温泉の組み合わせは無限。
失敗も宝、研究は楽しい!

温泉の源泉数、湧出量ともに日本一を誇る別府市。市内の至る所から、源泉も泉質も違う温泉が湧いています。そんな温泉を、浸かって癒されるだけでなく「染色に使ってみよう!」と取り組んでいるのが、行橋智彦さん。

行橋さんは、東京都出身。かつては、〈旅する服屋さんメイドイン〉として、足踏みミシンと共に全国を旅しながら、その地でしかできない服づくりを続けていました。

使っていたのは、その土地に生えている草木を海水や工業廃水など、その土地らしさのある水で煮出して、染めた布。草木があっても、いい水がなければ染色はできません。旅する服屋としての旅は、染色のためのいい水を探す旅でもありました。

そんななかたどり着いた別府には、数多の魅力的な温泉が湧いていました。ならば「温泉を使ってものづくりがしてみたい」と思った行橋さん。別府に移住し、温泉と植物だけを使う染色を「温泉染」と名づけ、〈温泉染研究所〉として研究を始めました。

温泉染について語る行橋智彦さん
温泉染のこととなると、話が止まらなくなる行橋智彦さん。「研究所」という言葉がぴったりの工房で、日々研究と試作を繰り返しています。

最初に取り組んだのは、「旅する服屋さん」の頃から実践している、浸し染め。植物を煮出し、そこに布や糸を浸けて染色する技法なのですが、すべてに植物と温泉を使っているそう。

茜やウコン、柿の葉やビワの葉、お茶の葉っぱなど。そこに、その都度違う温泉を合わせます。温泉で植物を煮出す場合もあれば、水で煮出して染色したあとに、温泉に浸ける場合も。温泉ごとにphや含まれる成分が異なるため、一度として同じ色にはならないといいます。

温泉染された糸の束がたくさん吊り下げられている
研究所には、数え切れないほどの試作品や研究成果が。温泉とミョウバンでの色の違いを確かめながら染め上げた糸の一群を見るだけでも、温泉染の可能性の高さを感じます。

「10種類の植物と10種類の温泉があれば、100通り。別府は3000近くの源泉があるので、組み合わせは無限にあります。調べる限り、別府が一番多様な温泉が湧いていると思います。それがおもしろいですね」

温泉染の糸を使ったアクセサリー
温泉染の糸を使った指輪
温泉染の糸を使ったアクセサリー。とてもすてきですが、現在は年に2度ほどのマルシェでしか販売していないそう。

2016年に移住してから、幾度となく組み合わせを試し、その都度データと試作品を残してきた行橋さん。データも作品ファイルも、すでにかなり膨大な量になっているのですが、「僕のこれまでの研究なんて、まだまだ。本当に一部です」と言います。

そんななか、「これはぜひ見せたい」と、茜を使ったサンプルを見せてくれました。そこにあったのは、暖かみのある豊かな色たち。染めた素材は、コットン、シルク、ウールの3種類なのですが、「合わせる温泉によってこんなに違いが出るの?」と、驚いてしまいました。

茜を使った試作の毛糸がたくさん並べられている
赤系の色に染まる茜を使った、試作の数々。煮出す温泉ごとに色が変わっています。「鉄輪(かんなわ)エリアにある5メートルしか離れていない温泉でも、(染め上がりの)色が違うんですよ。だから、エリアでも括れない。毎日出ているお湯は微妙に違うから、同じ温泉でも括れないんですよね」

「僕の研究の失敗データもおもしろいんですよ。いかに失敗しているかが、本当に財産。その失敗に僕も刺激されるので、いっぱい失敗したいって思うんです。失敗データの蓄積は、僕にとっては宝ですね」

温泉染への研究熱は、止まることがありません。


大分県各地の温泉を使って温泉染したサンプルが並ぶ
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