
植物と別府の温泉で染める
「温泉染」で文化をつくりたい!
〈温泉染研究所〉行橋智彦さん | Page 2
源泉掛け流しって、
もったいなくない?
行橋さんが別府に移住し温泉染に取り組むと決めたとき、決心したことがあります。それは、「どれだけ困難でも、50年はやり続ける」ということ。
別府の温泉が生まれるサイクルは、50年といわれています。別府に降った雨水が地中に染み込み、50年間をかけて温泉となって湧き出す――。
「自分がどう生きるかで、50年後が変わるかもしれない。だから、50年かけて文化をつくろうと思って来たんです」

「いまの温泉は50年前の雨。50年前のことをずっと考えつつ、50年後のことを考えてるんです。だから、その振り幅は100年。この年月を考えることが、ものづくりのエッセンスにもなっているんです」
「文化をつくりたい」と思うきっかけは幾つかあるそうですが、そのひとつが源泉掛け流しのもったいなさ。日本一の湧出量を誇る別府では、温泉は「源泉掛け流しが当たり前」と考えられてきました。ただ、文化もかけ流されてはいけない、と行橋さん。かけ流されてきた温泉を、温泉染という文化で残し続けられれば。
「何が正解かわからないから、とにかく温泉のポテンシャルを確かめなきゃいけない。温泉染がどうなるのか。実験する以外に、僕には道がないんです」

残したい文化が「染色」になったのにも、理由があります。別府には「明礬(みょうばん)温泉」というエリアがあるのですが、「ミョウバン」と名づけられているとおり、昔この地では温泉でミョウバンがつくられていました。それを知ったとき、染色との運命の出合いに驚いたといいます。ミョウバンといえば、天然染色には欠かせない材料。
「この土地に染色の文化があるはずだと思ってリサーチしたんですが、ミョウバンを利用した天然染色の文化にはたどり着けなかったんです」
行橋さんは、この土地ならではの染色の文化を、いま新たに構築しています。

明礬温泉の地名の由来にもなっているミョウバンは、いまではそのつくり方もわからなくなっているそう。その製法がかたちを変えて、〈湯の花〉という入浴剤がつくられるようになり、明礬温泉の代表的なお土産にもなっています。
行橋さんは以前から湯の花を使って染色をしていましたが、いま温泉染と同じ熱量で取り組んでいるのが、湯の花からつくる別府産のミョウバン。ミョウバンの研究をしている研究者や大学教授たちと一緒に研究している最中です。
「ミョウバンと湯の花を温泉染に生かしていくことは、僕のなかで別府の土地の色を表現する要素のひとつでもあります。時代の変化で衰退した文化ですが、もったいないと感じるんです。染色の文化があっていいはずだと思っています」
温泉染やミョウバンの研究には、「まだまだやる気があります。“よくここまでやるな”って人に思われるくらい、没頭してできる自信があります」と、行橋さん。