植物と別府の温泉で染める
「温泉染」で文化をつくりたい!
〈温泉染研究所〉行橋智彦さん | Page 3
温泉染で、温泉の多様性や
別府のおもしろさを伝えたい
別府の温泉の多様性は、温泉染の最大の武器にもなっています。
「温泉染のユニークなところは、別府の温泉という、めちゃくちゃ広いパレットを使っていること。そのひとつひとつの差が多様であることを、色で可視化できる。多様な資源を持っている土地のおもしろさも伝えられるんじゃないかと思っています」
これまで、研究成果を発表したり展示したりすることはあったものの、「温泉染を商品化する」ことには力を入れてこなかったという行橋さん。彼の膨大な研究成果と、染めた糸、染めた布の量に対し、プロダクトとして販売しているものはごくわずかでした。
最近になり、「温泉の多様性を色で可視化できる」ことをかたちにした商品がいくつか生まれています。そのひとつが〈旅するTenugui〉。
手ぬぐいは、行橋さん自身がとても惹かれている天然染料「柿渋」を使って型染めしたもの。
柿渋は天然染料であるからこそ、使い方によっては色が変わってしまう不安定さも併せ持っています。そんな不安定さも「おもしろい」と感じている行橋さんは、手ぬぐいそのものを商品にするのではなく、別府の温泉と合わせると変化することを楽しむプロダクトとして発信しています。
旅するTenuguiは、いろいろな温泉に連れて行ってその変化を楽しむのもいいのですが、家でもその“変化”を楽しめるようにと、別府ならではの入浴剤、湯の花も付属。家でも変化の過程を楽しむことができます。
「湯の花を溶かした水にこの柿渋の手ぬぐいをつけると、ばっ!と色が変わる。本当に一瞬で結構変わるんですよ」
柿渋と湯の花で染めた靴下も販売中。柿渋には抗菌作用もあるため「靴下と相性がいい」と、商品化したそう。柿渋は日光にもよく反応するため、「太陽染め」とも呼ばれています。
「文化をつくりたい」と別府に住まい、温泉の魅力や可能性をあらためて実感しながら研究に没頭する日々ですが、「文化って何だろう」と考えることも。
「答えは出ませんが、“子どもたちに知ってほしい”っていう思いは芽生えているんです。別府で生まれた子どもたちが、自分が育ったまちを“ここってすごいよな!”と思えるものをたくさん用意するのは、大人の使命だと思っています」
小学校や子ども向けのワークショップも積極的に行い、温泉染の不思議と魅力を伝えています。
これからも、温泉のサイクルである「50年」という数字を意識しながら、作品をつくりたいという行橋さん。
「そろそろ何かひとつ、“温泉染めとは”みたいなことがぐっと伝えられる、アイコニックなものをつくれたらと思っています」
探究と研究を続けながら深めていく温泉染の文化、その成果としての商品や作品の発表にも、期待が高まります。
1988年東京都生まれ。服飾の専門学校などを経て、舞台や映画の衣裳制作に携わる。2013年から、〈旅する服屋さんメイドイン〉として、足踏みミシンを携えて全国各地を渡り歩く。そのなかで、土地のものを使って染色を開始。2015年に開催された芸術祭〈混浴温泉世界〉で別府での滞在制作を経験し、翌年、別府に移住。天然の植物と温泉を使った「温泉染」や、別府産ミョウバンなどの研究に勤しむ。Web|温泉染研究所
*価格はすべて税込です。
credit text:河野恵 photo:ただ(ゆかい)