
国東半島の身近な素材を使ってつくる器。
〈くにさきかたち工房〉垣野勝司さん | Page 3
居心地のいいギャラリーカフェが
新たな人と人とのつながりを生む場に
もうひとつ、国東で生まれた作品に「原土」シリーズがあります。これは、ご近所の山の頂上付近で採れる土を、そのまま使って作陶します。水に溶いて粒子を揃えることもしないため、ブツブツした土の質感もそのまま。このまま器にすると水が漏れてしまうため、内側に別の土を重ね、2層にして成形していくそうです。

「陶芸は特に、地元で採れるものを使う傾向があると思います。僕はまだそこまでやり切れてはいないけれど、できるだけ地元のものを使いたいですね」と、垣野さん。
なるべく昔の方法に近づけるため、将来は「薪窯で焼きたい」とも。ガスや電気の窯とは違い、薪は温度調整も難しくなりますが、「作品を“火に委ねる”というか。自分のコントロールできないところでできていくのも、おもしろいのかなと思います」。

くにさきかたち工房のきなりや黒刷毛の器は、島根県に本店を構え、全国のデパートなどにも展開している〈石見銀山 群言堂〉でも購入することができます。
一方で、原土シリーズやクレーの器は、これまで県内外で開催される作品展などでしか出合うことができませんでしたが、昨年夏に自宅兼工房のすぐそばに〈うつわと喫茶 みなつち〉をオープン。ギャラリーには多くの器や作品が展示されており、ゆっくり鑑賞もでき、購入も可能です。カフェでは、くにさきかたち工房の器でドリンクを楽しむことも。

「ここに来てもらうのがベストなのかな、と思っているんです」と、垣野さん。
そう思うひとつのきっかけになったのが、くにさきかたち工房の器を早くから取り扱ってくれている群言堂の姿だったといいます。創始者のご夫婦が、田舎でものづくりをしながら全国に発信しており、若者がわざわざローカルな場所に来て服づくりをしたり、宿泊施設やカフェを営んでいる。そんな姿に影響を受けたのだそう。
「地方から発信しつつ、人にも来てもらえる。そんな感じが理想ですね」

薪窯を始めるにあたり、コミュニティづくりも必要だと思い始めたという垣野さん。人が集える場所ができたことで、イベントなどの催しもしやすくなったと感じています。いろいろな人が訪れることを、楽しみにもしているとか。

今後は、取引先の飲食店やレストランの方を招いたイベントも構想中。
「ここに来て、何かやってもらえるようになったらおもしろいな、と思うんですけど。もうちょっと先の話かな」
また、「国東の“おもしろさ”を、もう少し言語化して伝えていきたい」とも。作陶だけでなはく、「ここで何が起きるのか」垣野さん自身も、期待しながら変化を楽しんでいるようです。


1970年千葉県生まれ。武蔵野美術大学工芸工業デザイン科在学中に、メキシコや韓国、中国、タイ、ベトナムなど各国を旅する。20代で開いたクラフトショップがきっかけで、作陶を始める。2004年から千葉や東京で個展を開催、飲食店の食器も手がける。2012年、国東半島に移住。〈くにさきかたち工房〉を開き、土地に根ざした暮らしのなかで、身近なものを使った作陶に取り組む。Web|くにさきかたち工房
*価格はすべて税込です。
credit text:河野恵 photo:ただ(ゆかい)