〈うつわと喫茶 みなつち〉の店内
連載|日常を楽しくする、大分の手仕事

国東半島の身近な素材を使ってつくる器。
〈くにさきかたち工房〉垣野勝司さん | Page 3

Posted 2025.02.07
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居心地のいいギャラリーカフェが
新たな人と人とのつながりを生む場に

もうひとつ、国東で生まれた作品に「原土」シリーズがあります。これは、ご近所の山の頂上付近で採れる土を、そのまま使って作陶します。水に溶いて粒子を揃えることもしないため、ブツブツした土の質感もそのまま。このまま器にすると水が漏れてしまうため、内側に別の土を重ね、2層にして成形していくそうです。

近所の山でとれた土が袋に入っている
「原土」シリーズに使う、近所の山でとれた土。ほかの土と混ぜると均一化してしまうので、混ぜずにこの土だけでつくっているそう。

「陶芸は特に、地元で採れるものを使う傾向があると思います。僕はまだそこまでやり切れてはいないけれど、できるだけ地元のものを使いたいですね」と、垣野さん。

なるべく昔の方法に近づけるため、将来は「薪窯で焼きたい」とも。ガスや電気の窯とは違い、薪は温度調整も難しくなりますが、「作品を“火に委ねる”というか。自分のコントロールできないところでできていくのも、おもしろいのかなと思います」。

表面は土そのものの雰囲気が生かされゴツゴツとしている原土シリーズの作品
原土シリーズの作品。荒々しい面もありながら、どっしりとしていて存在感があります。内側と外側で土が2層になっているため、その風合いや色味の違いも興味深いですね。

くにさきかたち工房のきなりや黒刷毛の器は、島根県に本店を構え、全国のデパートなどにも展開している〈石見銀山 群言堂〉でも購入することができます。

一方で、原土シリーズやクレーの器は、これまで県内外で開催される作品展などでしか出合うことができませんでしたが、昨年夏に自宅兼工房のすぐそばに〈うつわと喫茶 みなつち〉をオープン。ギャラリーには多くの器や作品が展示されており、ゆっくり鑑賞もでき、購入も可能です。カフェでは、くにさきかたち工房の器でドリンクを楽しむことも。

たくさんの作品が並ぶ〈うつわと喫茶 みなつち〉ギャラリースペース内観
〈うつわと喫茶 みなつち〉のギャラリースペース。左手前はラスター彩の器、手前中央にあるのは、きなりシリーズの大小の皿。奥には、クレーの器や原土シリーズのほか、金彩や銀彩の作品も並んでいます。

「ここに来てもらうのがベストなのかな、と思っているんです」と、垣野さん。

そう思うひとつのきっかけになったのが、くにさきかたち工房の器を早くから取り扱ってくれている群言堂の姿だったといいます。創始者のご夫婦が、田舎でものづくりをしながら全国に発信しており、若者がわざわざローカルな場所に来て服づくりをしたり、宿泊施設やカフェを営んでいる。そんな姿に影響を受けたのだそう。

「地方から発信しつつ、人にも来てもらえる。そんな感じが理想ですね」

ひとつひとつ形の違う、ギャラリーに並んだ器たち
ギャラリーに並んだ器の一部。カフェでいただくドリンクは、くにさきかたち工房の器で提供されます。実際に使われている姿を見ることで、器購入の参考にもなります。

薪窯を始めるにあたり、コミュニティづくりも必要だと思い始めたという垣野さん。人が集える場所ができたことで、イベントなどの催しもしやすくなったと感じています。いろいろな人が訪れることを、楽しみにもしているとか。

〈うつわと喫茶 みなつち〉の喫茶スペース
みなつちの喫茶スペースは、ほっとくつろげる空間。垣野さんの器や作品のファン、陶芸好きが訪れるだけでなく、ご近所の方々の憩いの場にもなっています。「今風に言えば、サードプレイスみたいな感じで使ってもらえればいいかな。焼き物がきっかけで緩くつながることができる場所になれば」

今後は、取引先の飲食店やレストランの方を招いたイベントも構想中。

「ここに来て、何かやってもらえるようになったらおもしろいな、と思うんですけど。もうちょっと先の話かな」

また、「国東の“おもしろさ”を、もう少し言語化して伝えていきたい」とも。作陶だけでなはく、「ここで何が起きるのか」垣野さん自身も、期待しながら変化を楽しんでいるようです。

工房の薪ストーブの前で暖をとる垣野さん
「いまは、この場所で何かできることを探している感じですね。カフェだったり、ギャラリーだったり、何か別のものを販売するかもしれない。うちのスタッフがつくったプリンがおいしいんですよ。これももう少し広げたいなぁ」
Profile 垣野勝司

1970年千葉県生まれ。武蔵野美術大学工芸工業デザイン科在学中に、メキシコや韓国、中国、タイ、ベトナムなど各国を旅する。20代で開いたクラフトショップがきっかけで、作陶を始める。2004年から千葉や東京で個展を開催、飲食店の食器も手がける。2012年、国東半島に移住。〈くにさきかたち工房〉を開き、土地に根ざした暮らしのなかで、身近なものを使った作陶に取り組む。Web|くにさきかたち工房

Information
うつわと喫茶 みなつち
address:大分県国東市国東町大熊毛2033-1
tel:080-3372-3760
営業時間:11:00~16:00(金・土曜のみ営業)
Instagram:@minatsuchi.k

*価格はすべて税込です。

credit text:河野恵 photo:ただ(ゆかい)

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