レトロなワンピースでお散歩したい!
豊後高田で「昭和の町」にタイムスリップ
大分県北部に位置する豊後高田(ぶんごたかだ)市。大分空港からノースライナー(高速バス)で約50分、車で一般道を利用した場合は約45分ほどでアクセスできる場所にあるまちです。
そんな豊後高田市といえば、昭和30年代のまち並みを再現した商店街、通称「昭和の町」が有名です。昭和レトロなファッションをレンタルして、昭和のムードあふれる商店街やテーマパークをぶらぶらり。
まるでタイムスリップしたかのような気分を味わえる「昭和の町」を案内しましょう。
好きな衣装を選んで
昭和レトロな空間で記念撮影!
プリーツワンピにショルダーバッグで商店街をそぞろ歩きし、メロン色のクリームソーダでひとやすみ――そんな1日を体験できるのが「昭和の町」。レトロ好き女子たちが大注目しているスポットです。
「豊後高田は、“時代を超えて残り伝わっていく魅力”がたくさんあるまちなんですよ」。
そう話すのは宮﨑香帆さん。市の「地域おこし協力隊」として活動中の彼女が、今日のお散歩の案内役です。国東半島(くにさきはんとう)の西岸にある豊後高田には、“日本の夕陽百選”に選ばれた美しい夕陽が見られる真玉海岸(またまかいがん)や歴史あるお寺、日本最大級の磨崖仏(まがいぶつ)など、みどころがいっぱい。そんなまちの新たな名所が「昭和の町」なのだとか。
「自分では体験したことのない、でも古い写真や映画で見たことのある、魅力的な昭和30年代へタイムスリップできるはず」という宮﨑さんと、まずはまちのランドマークにもなっている〈昭和ロマン蔵〉へ向かいます。
昭和30年代のまち並みを疑似体験できたり、駄菓子や絵本やブリキのおもちゃと出合えたり。心が躍る昭和のテーマパークです。
最初のお楽しみはレトロなファッションに着替えること。「昭和ロマン蔵」では、昭和の町に似合う衣装をレンタルできるのです。
グラフィカルな柄のミニワンピから60年代風のファー付きガウンまで、悩みに悩んだ宮﨑さんは、えんじ色のレトロなワンピースと白いショルダーバッグをチョイス。
着替えをすませた宮﨑さんが向かったのは、昭和のレトロカーやボンネットバスが展示されている広場。ボンネットバスには自由に乗り込んで当時の雰囲気を味わうことができるんです。
車内の壁や座面はレトロなブルー。押し上げ窓や板張りの床も味わいがあって、一気に気持ちが高まります。「こんなにすてきな雰囲気だと、モデルさん風のポーズも自然に楽しめちゃいますね」と宮﨑さん。
次に向かったのは〈昭和の夢町三丁目館〉。昭和30年代の風景や民家、商店など、当時の暮らしを再現した体感施設です。
ネオンがきらめく案内所ですでにドキドキ。ゲートをくぐると、当時の広場を再現したコーナーが現れます。土管(漫画『ドラえもん』のジャイアンがリサイタルをひらく、あの場所ですね)に近づくと、どこからかお豆腐屋さんのラッパの音も聞こえてきます。
「テレビドラマで見た“お茶の間”が再現されていて、その中に自分がいるのが不思議な感じ。レトロな家具もテレビや炊飯器などの家電も、なんだか新鮮に感じます」
宮﨑さんがそう話すのは、今から50~60年前の暮らしを体感できる「民家ゾーン」です。ちゃぶ台に座布団に五右衛門風呂。懐かしい調度品を眺めながら畳の間でくつろいでいると、黒電話がジリジリジリーッと鳴り出して……そんなミニアトラクションも楽しいのです。
鉄腕アトムやピンク・レディー、ビッグカツまで。
昭和の駄菓子やレコードが6万点も!
「当時を知る世代の人たちが喜びそうなおもちゃやレコードがいっぱい。同世代の友だちと来るのも楽しいけれど、両親やおばあちゃんおじいちゃんと一緒に来たら、いろいろ教えてもらえそうですね」と話す宮﨑さん。
〈昭和の夢町三丁目館〉でかつての暮らしを体感した後は、お隣りの棟にある〈駄菓子屋の夢博物館〉で昭和のエンタメを堪能します。
館長は、駄菓子のオマケなど昭和のおもちゃを日本一多く所蔵する小宮裕宣さん。40万点を超える膨大な収蔵品の中から、随時6万点が展示されている様子は圧巻です。
セルロイドの小さな玩具から、鉄腕アトムや不二家のペコちゃんのフィギュアまで。たくさんの「かわいい!」と「懐かしい!」を次々と眺めていた宮﨑さんが、あるコーナーで足を止め、「今度は母を連れてきたいな」とにっこり。
壁一面に飾られているのは歌謡曲のレコードジャケットです。昭和のアイドルたちの髪型やファッションは、今見ると新鮮でとても魅力的。ポージングもそれぞれ個性的で、ちょっと真似したくなるほどです。
さて、最後のシメは昭和のおやつ。そう、駄菓子です。〈駄菓子屋の夢博物館〉には、実際に駄菓子を買える店舗が併設されています。
あんず飴にビッグカツ、酢いかにココアシガレットに果物味のフーセンガム。ひとつ10円や20円から買える懐かしの駄菓子オンパレードに「童心に帰るってこういうときのことを言うのかな。買いすぎ注意! ですね」と宮﨑さん。
駄菓子は、昭和生まれにとっても平成生まれにとっても、永遠のレトロなのかもしれません。
揚げたてコロッケにクリームソーダ。
昭和の店が温かく迎える商店街へ
「そろそろ『昭和の町』の商店街を歩きましょう。普通に歩けば15分ほどの距離ですが、寄り道しながらだとたっぷり時間がかかっちゃいますよ」と笑いながら屋外へと向かう宮﨑さん。
〈昭和ロマン蔵〉を後にして、総計約550メートルの通りに80軒近くのお店が並ぶ商店街を目指します。
商店街にはいくつかの通りがありますが、この日は〈昭和ロマン蔵〉に近い新町通りへ。食堂やカフェバー、和菓子店などを通り過ぎ、宮﨑さんが立ち寄ったのは昭和26(1951)年創業の〈肉のかなおか〉です。
築72年だという木造の建物と、歴史を感じる「金岡」の看板。店内に入るとガラスケースに精肉が並んでいます。「このお店は手づくりコロッケも大人気で、お客さんが並んでいることも多いんですよ」と宮﨑さん。
「豊後高田市の中心地には江戸時代から昭和30年代ごろまで、国東半島のなかでもとくに栄えた商店街があったんです。ところが時代の移り変わりのなかで、いつしか置いてけぼりになってしまいました」。
そこで平成13(2001)年にスタートしたのが、「昭和の町」プロジェクト。商店街に活気があった最後の時代である昭和30年代の雰囲気をよみがえらせようと、市や商店街の有志が集まります。
実は、商店街の建物の約7割が昭和30年代以前に建てられたもの。「昭和」をテーマにした町づくりに乗り出しました。この発想が大あたりで、レトロブームで注目されたり映画のロケ地に選ばれたり。今では年間約40万人が訪れる大人気商店街になりました。
店頭で買って食べるのは初めてという宮﨑さん。「何がおいしいですか?」「いちばん人気は和牛コロッケの“上”かな」などと会話を交わしつつ、おすすめのコロッケを注文します。
「今揚げますからちょっと待ってね」のひとことがなんだかうれしい。待つこと数分。「熱いから気をつけて」と、紙に包んだまま手渡されたコロッケは、サックサクのホクホク。香ばしいにおいと湯気がふわっと立ちのぼって、宮﨑さんも「ん~~」と幸せいっぱいの表情です。「こんなお店が家の近くにあったらいいのにな」。
コロッケを食べ終わったら、次はやっぱり甘いもの。宮﨑さんが「ここにしましょう」と目を輝かせたのは、明治時代の建物でコーヒーが飲めるハイカラな喫茶店〈伯剌西爾珈琲舎(ブラジルコーヒーしゃ)〉です。
宮﨑さんのお目当てはその名も「レトロなクリームソーダ」。しずしずと登場したメロン色のクリームソーダをスマホで撮影しつつ、「わあ、すてき」「こっちの角度がかわいいかな」と大喜びです。
ひとしきり写真を撮ったところで、アイスクリームをすくってひと口、ふた口。
「このバニラアイス、すごくおいしい。とてもなめらかです」。
あまりのおいしさに感動して、名物店主の林修三さんに話をうかがったところ、2種類の生クリームをブレンドしたオリジナルの濃厚バニラアイスを使っているとのこと。
「色もきれいだし、グラスやスプーンもレトロでかわいい。クリームソーダって本当に魅力的ですよね」
静かな店内でくつろいだ後は、今来た通りを散策しつつ〈昭和ロマン蔵〉へ戻ります。
昔ながらの製法でつくるアイスキャンディーが人気の和菓子店〈森川豊国堂〉や、懐かしい学校給食を食べられるカフェ&バー〈ブルヴァール〉。化粧品を扱う〈ぶんごたかだ温泉座〉で昭和の化粧品の代名詞〈ロゼット洗顔パスタ〉を発見したり、昭和55(1980)年から値段が変わらない食堂〈大寅屋〉で“地元野菜の手作りちゃんぽん350円”の張り紙に驚いたり。
さて、夕暮れ時が近づいたらレトロ散策もそろそろ終わりです。「昭和の町」の商店街は、まち並みや建物の佇まいもレトロなら、お店の人とお客さんとのやりとりも昭和フィーリング。
「自然と表情がやわらかくゆるみ、口調も穏やかになりますよね」と宮﨑さん。「昭和の町」に流れるやさしい空気は、人の心もちまで変えるのかもしれません。
豊後高田市には、ほかにも魅力がいっぱい。「昭和の町」から「長崎鼻(ながさきばな)」までを結ぶ道中は「恋叶(こいかな)ロード」という愛称で呼ばれ、大分県随一の縁結びスポットとして知られる〈粟嶋社(あわしましゃ)〉や、“日本の夕陽百選”にも選ばれている〈真玉海岸〉など、ロマンティックな名所が点在しています。
干潟と夕陽が織りなすパノラマ「真玉海岸の夕景」
また、西日本有数のそばの産地としても知られ、年に2回栽培を行うことから、一般的な新そばの季節とされる秋だけでなく、夏にも新そばを味わうことができます。
※価格はすべて税込みです。
credit text:輪湖雅江、柿崎真英 photo:永禮賢