深蒸し煎茶〈豊国一〉を湯呑みに注ぐ様子
連載|おおいた食手帖

江戸時代から続く
老舗茶舗〈お茶のとまや〉。
城下町杵築が誇る280年の伝統と
おもてなしの心 | Page 2

Posted 2023.06.30
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江戸時代から大切にしてきた、お茶へのこだわりと歴史の味

〈とまや〉の煎茶セット
店内の喫茶スペースで提供されている煎茶セット550円。深蒸し煎茶〈豊国一〉と手づくりの落雁〈豊生(ほうせい)〉。

長きにわたって受け継がれてきた茶葉への目利きと製茶の技術でつくり上げられた煎茶。ひと口飲むと、濃厚なうまみが口いっぱいに広がり、爽やかな渋みが喉を通り抜けます。そんなお茶のお供として愛され続けているのが落雁〈豊生〉です。江戸時代に6代目当主の妻がつくり上げた味を忠実に再現し、日常で食べられるのはもちろん、おもてなしや慶弔行事の引き出物としても親しまれてきました。

手づくりの落雁〈豊生〉2種類
〈とまや〉を代表する手づくりの落雁〈豊生〉。薄紅色は杵築市花の豊後梅をイメージ、薄緑色は良質な抹茶入り。杵築で長年愛される昔懐かしい、ふるさとの味です。
落雁の型取りをするための木枠
当時使用されていた落雁の型取りをするための木枠。現在は若女将の佐和さんが自ら型抜きを行い、ひとつずつ丁寧に手づくりしています。

一度生産を中止していましたが、1987年(昭和62年)、店の前面の道路拡幅工事によって曳家(建物を解体せずにそのまま移動すること)を余儀なくされ、築130年の復元・改修を行った際に記念として復刻。当時から落雁〈豊生〉のファンは多く、お客さんからの「ぜひ商品化してほしい」という声が後押しになったそう。

〈とまや〉の外観
〈とまや〉は3メートル以上曳家(ひきや)を余儀なくされましたが、形状は変えずに元の姿を保ったまま創建当時の佇まいを残しています。
草ぶき屋根の家を象った〈とまやの最中〉
屋号「苫屋(とまや)」の由来から草ぶき屋根の家を象った〈とまやの最中〉150円。パリッとした皮の風味と、程よい甘さのつぶし餡がお茶との相性抜群。お茶に合うお菓子として生み出された人気商品です。

280年以上続く伝統、ゆかりの品々を受け継ぎ、日々積み重ねながら〈とまや〉の歴史と共に歩んできた佐和さんに、今後の展望についてうかがいました。
 
「小さい頃は店が遊び場で、高校生の頃から本格的に手伝うようになり、〈とまや〉と共に育ってきました。ここまで長く続けてこられたのは、今あるものを守り続けることを大切にしてきたからだと思っています。最近は急須でお茶を入れる習慣がない方も増えていて、普段忙しくておいしいお茶をゆっくり飲むということ自体が特別なことになってきていると感じます。だからこそ、『杵築の〈とまや〉に寄れば、いつでもおいしいお茶を飲める』と、訪れた人がほっとひと息つける、そんな安心できる場所になっていたらうれしいですね」

店舗奥の座敷
京造りの佇まいを残す奥座敷では、抹茶・煎茶の体験や、ポーセラーツ(白磁に自由に上絵付けできるハンドクラフト)インストラクターの資格を取得した佐和さんによるワークショップが開催されることも。

地元の人はもちろん初めて訪れた人も、まるでふるさとに帰ってきたかのような居心地の良さでついつい長居してしまうのは、常に先代の知恵を重んじ、伝統を受け継ぐお茶へのこだわり、おもてなしの心を第一に考えてきたから。そんな江戸時代から続く歴史と文化の継承こそ、お茶どころ杵築で〈とまや〉が長きにわたって愛される理由なのかもしれません。

Information
お茶のとまや
address:大分県杵築市新町385
tel:0978-62-2139
access:JR杵築駅から車で約10分
営業時間:9:00~19:00
定休日:元日
web:お茶のとまや公式ホームページ

*価格はすべて税込です。

credit text:大西マリコ photo:黒川ひろみ

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