鳩笛、福獅子、だるま鈴。
愛され続ける土人形。
土人形作家・宮脇弘至さん | Page 2
手の中でつくるから、表情もフォルムも愛おしい。
「目指しているものですか? 答えはひとつ、愛される人形です」。さらりとそう話す宮脇さん。
「僕はずっとビートルズが好きで憧れているんだけれど、ビートルズがなぜ世界一なのかと言えば、アイドルだからでしょう? どんなに演奏がうまくても、愛される存在じゃないとナンバーワンになれない。僕も、自分が有名になりたいとかお金が欲しいのではなくて、自分がかわいいと思ってつくる人形が、みんなのアイドルになってくれたらと思っているんです」
決めているのは、最初から最後までひとりで手がけること。「石膏で形をつくり、土を詰めて型取りし、細かい部分を削ったり穴を開けたりしてから乾燥させて窯で焼く。焼成したものにひとつずつ色を塗って顔や模様を描いて……ひとつできあがるまでに40日以上。ものすごく手間がかかりますが、分業にしてしまったら、僕がかわいいと思う人形とはズレが生まれる気がするんです」
「自分の手で握った感覚で人形をつくりたいんです」という宮脇さんに、絵付けの作業を見せてもらいます。素焼きした人形を左手で握り、右手の筆を丁寧に動かして……筆運びは慎重ですが、ふと宮脇さんの顔を見ると、ちょっぴり微笑んでる?
「こうやって、手の中で顔を描いている時点で、もう愛着が湧いちゃうんだよね。正面からだけじゃなく、横から見たところも後ろから見た姿も全部かわいくしてあげたいから、大変だけど楽しい」
さて、そうやってつくられたひとつが〈南蛮鈴〉という名の土人形。モチーフとなっているのは、15~16世紀の日本に西洋文化を伝えたポルトガルやスペインの人々です。胴体を持って振ると、カラカラカランと光が転がるような澄んだ音。そう言えば、宮脇さんがつくる郷土玩具には、音が鳴るものが多いようです。
「鈴や笛などの音が鳴るものは、昔から魔除けや神さまを呼ぶものと言われてきたんですよね。だから音にも神経を使う。粘土の厚さも大事だし、焼くときの温度も大切。それに、ちょっとでもひびが入ったらいい音は響きません」
いかにいい音を鳴らせるか、実験の繰り返しだと宮脇さんは話します。
「音にしろ形にしろ、僕は学校できちんと学んだわけではないので、一番いいところを自分で探し続けて見つけるしかない。うまくいかんなあと思いながら、それでも一生懸命続けていると、ある日、突然ひらめいて、できなかったことが急にできるようになる。“こうすればいいんだ!”って」