鳩笛、福獅子、だるま鈴。
愛され続ける土人形。
土人形作家・宮脇弘至さん | Page 3
キース・リチャーズと葛飾北斎が心の師匠!?
「土人形を焼成するのは自分でつくった薪の窯です。ふつうは窯の横から作品を出し入れするんだけど、それだと腰に負担がかかりそうだったから、井戸のように上から出し入れできる形を考えました。もう20年以上使っているんじゃないかな」
40年前にごく基本だけを教わって以来、誰に師事することもなく、あらゆることを自分で調べ、考え、工夫して。そんな宮脇さんが、窯のある庭へと歩きながら大真面目にこう話します。「僕の師匠はローリング・ストーンズですから」
「ストーンズのキース・リチャーズがね、“『サティスファクション』に『ジャンピング・ジャック・フラッシュ』。なぜ何十年も同じ曲を演り続けるんですか?”と聞かれて、こう答えてたんです。“もっともっとうまくなれる気がする。そう感じているうちは絶対にライブをやり続ける“って。だから、彼らが続けている間は、僕も人形をつくらなくちゃいけないんです」
そしてもうひとりの心の師匠は、江戸時代の天才絵師・葛飾北斎。
「ものすごく変わったオジサンだったようだけど、88歳まで描いて描いて描き続けて、死ぬときに“あと5年あれば本物の絵師になれるのに”って言ったんでしょう。理想です。僕も、描いてるときが一番楽しい。とくにうれしいのは目と口を描いてるときかな。あたりまえだけど人形はみんな笑顔だから、僕に微笑んでくれてるみたいに見えるんです」
ひとつ描くたびに「かわいく描けたかな」「こいつは大丈夫かな。ちゃんと買ってもらえるかな」と心配になる。「だから、豊泉堂さんの人形はかわいいねとか、顔を見るとホッとするとか言ってもらえることが一番の張り合い。この間は“玄関に飾った土人形に、毎朝手を振って出かけます”という手紙をもらって、本当にうれしかったなあ。もっともっとかわいい人形をつくりたい。師匠のキースと一緒で、僕もまだうまくなれると思ってますから」
1953年愛知県生まれ。20代で名古屋市から大分県別府市に移住し、土産物問屋〈豊泉堂〉に就職後、土人形づくりに目覚め28歳で独立。〈豊泉堂〉の屋号を継ぐ。大分県各地の郷土玩具をアレンジした土人形が大人気。2021年にはアートプロジェクト〈広川玉枝 in BEPPU〉の公式グッズとなる土人形も手がけ、話題を集めた。
*価格はすべて税込です。
credit text:輪湖雅江 photo:白木世志一