使うほどに強く美しく育つ、
革小物と柿渋染め。
革職人・小河眞平さん | Page 2
新たな肩書きは「材を縫う」人。
昔ながらの柿渋染めでつくる布バッグ
「最近、肩書きに悩んでまして」と、ちょっと笑いながら手渡された小河さんの名刺。肩書きには革職人でも鞄職人でもなく、「材を縫う」と書かれています。材を縫う? 「そうなんです。革だけでなく、綿や麻を使ったものづくりも始めたので。土に還る自然素材を使ってものをつくる人、というようなイメージです」
そう話す小河さんに案内されて、工房の奥へ向かったところ、現れたのは広い裏庭。真ん中には小川のような用水路も流れています。
「今日は帆布と麻を柿渋で染めましょう」
柿渋とは、渋柿の絞り汁を発酵・熟成させてつくった液体のこと。柿渋に含まれるタンニンには防腐作用や防水効果があって、昔から番傘やうちわ、漁網、酒袋などに使われてきました。
その柿渋で帆布や麻を染めるのが柿渋染めです。まずは、生地を柿渋に浸けて直射日光にあてて乾かして……という工程を4~5回。「一度で濃く染めようとすると固くなってしまうので、薄い色での染めと乾燥を繰り返すんです」
こうして染まった生地は、赤みを帯びた淡い茶色。でも、これが目指す色ではありません。次は、媒染液に浸けて発色させ、その色を定着させる工程です。小河さんが行うのは“鉄媒染(てつばいせん)”。錆びた鉄に水と酢を入れて煮詰めた自家製の媒染液に生地を浸すと、見ているそばから黒くなっていきます。
「真っ黒になったものを天日にさらすと、柿渋が空気に触れることで色が出てきます。発色は、季節や天気、湿度によっても変わるんですよ」
「綿や麻などの強い生地には柿渋が似合うと僕は思うんです」と話す小河さん。実は柿渋を使い鉄媒染で黒く染めた革でも、バッグのストラップをつくっています。
「革と柿渋もすごく相性がいい。いい革は使えば使うほど色が濃くなって存在感が出るものですが、柿渋にはそれに負けない強さがあるんです。藍染めもそうですが、もともと大衆の染め物だったからでしょうか、柿渋染めには生命力があるような気がします。服よりも“生活の道具”にふさわしい染めなんですね」