木工ろくろを使って台皿を製作中
連載|日常を楽しくする、大分の手仕事

日常に寄り添う、
洗練された湯布院の木工作品。
〈木屋かみの〉神野達也さん | Page 2

Posted 2024.01.25
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自由な発想から生まれる
型にはまらない木工品づくり

木工道具が部屋一面に並ぶ〈木屋かみの〉の工房

一歩足を踏み入れると、まるで秘密基地のようになんだかワクワクする〈木屋かみの〉の工房。木の香りがいっぱいに広がり、心地よい空間です。たくさんの木材や機械があるもののどれもきちんと居場所があり、神野さんが愛情をもって制作に励んでいることが伝わってきます。展示会や商品の納品が近くなると、1日の多くの時間を工房での制作に費やすそう。

ストックされた切り出された木材
さまざまな厚みや幅に切られた木材。少しも無駄にしないよう、パズルのように組み合わせを考えて作品をつくります。
テーブルソーで木材を切り出す作業
無駄なく製材し、つくるものに合わせて木取りすることで、木材の厚みや幅を揃えていきます。
木工ろくろを使って台皿を加工中
固定した木材を高速で回転させながら削り加工するための「木工ろくろ」。手持ちの刃物を広範囲に動かせるため自由度が高いですが、一方で扱いが難しく、技術が必要です。
木工ろくろで作業中の神野さん

「ほかの作業は図面を見たり、寸法を測ったりしながら、形にしていくのですが、木工ろくろで作業する時間は、もう少し削ろうかな、いやこのへんでやめておこうとか、試行錯誤できる時間でもあるので楽しいです。きっと“考える作業”があるからでしょうね。完成したイメージとか、頭の中でいろいろとイメージをめぐらせながら、考えるための時間でもあります」

制作中の丸みを帯びた台皿
木工ろくろを使って削った制作中の台皿。丸みを帯びた美しい形に。

自由に試行錯誤できることに楽しさややりがいを感じつつも、同時に難しさもあるという、神野さん。

「その日の調子で思うような形になったり、ならなかったりするからやっぱり難しさは感じますね。僕は脱サラして、この世界がおもしろそうだと思って始めて、修業はほとんどしてないので、いわゆる“たたきあげ”の職人さんと比べると、考えたり悩んだりすることがきっと多いと思うんです。職人さんはおそらく手が勝手に動いて、体が技を覚えているけれど、僕は『本当にこれでいいんだろうか?』と悩みます。でも、すごく遠回りをしてでも、試行錯誤しながらつくっていくのが性に合っているのだと思います」

外丸ノミを手にする
神野さんの作品によく使われる外丸ノミ。通常は内側が削れているノミとは逆に、外側が裏刃になっているのが特徴。一定の線で、浅くまっすぐ削ることができます。
様々な刃先のノミが並んでいる
神野さんが木型屋さんから譲り受けたという大工道具のノミ。「木型屋という車のホイールなどの部品のモデルを木で加工し、つくる職業があります。知り合いの木型屋さんが廃業する際に譲り受けたノミでー点もの。ものづくりに欠かせない大切な道具です」

「型にはまらないものづくり」ができるのは、個人で技を磨いてきた神野さんの技術があってこそ。例えばこちらの器。「しのぎ」という縦に入った筋が特徴ですが、一般的にはカンナやヘラで行う技を、ノミを使ってひとつひとつ丁寧に彫っています。

黒く染色されたリムボウル
草木染の手法である「鉄媒染(てつばいせん)」を応用して染色。鉄媒染液の鉄成分を木地に染み込ませると、木地に含まれる水溶性成分のタンニンと化学反応を起こし薄墨色に変化していきます。

一般的な着色ではなく、染色することで木目を潰さずに素材本来の風合いを生かしながら艶やかな表情を演出しています。あたたかみのある素材ゆえ、手づくり感が出すぎてしまうこともある木工作品。しかし、神野さんはあえて「あたたかみが出すぎないようにしている」といいます。

「もともとデザインの仕事をしていたので、ラインやシルエットにはこだわっています。ほかの人が木材ではつくらないような、整ったラインやデザインチックなシルエットというのかな。これは感覚的なものだから言葉にするのが難しいけど、ほっこりしすぎないところが僕の作品の特徴だと思っています」

思い通りにいかない木という素材を扱うのが楽しく、「飽きることがないです」と笑顔で話す神野さん。子どもの頃から絵を描いたりものづくりをしたりするのが大好きな図工少年だったそうで、
自然なかたちでデザインの道へ進んでいったといいます。使っても飾っても、さまになる神野さんの木工作品。その背景にはデザイナーとしての経験と感覚が生かされているようです。


専用計測機でバター皿の丸みや深さを測っている
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木工作品を届ける

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