日常に寄り添う、
洗練された湯布院の木工作品。
〈木屋かみの〉神野達也さん | Page 2
自由な発想から生まれる
型にはまらない木工品づくり
一歩足を踏み入れると、まるで秘密基地のようになんだかワクワクする〈木屋かみの〉の工房。木の香りがいっぱいに広がり、心地よい空間です。たくさんの木材や機械があるもののどれもきちんと居場所があり、神野さんが愛情をもって制作に励んでいることが伝わってきます。展示会や商品の納品が近くなると、1日の多くの時間を工房での制作に費やすそう。
「ほかの作業は図面を見たり、寸法を測ったりしながら、形にしていくのですが、木工ろくろで作業する時間は、もう少し削ろうかな、いやこのへんでやめておこうとか、試行錯誤できる時間でもあるので楽しいです。きっと“考える作業”があるからでしょうね。完成したイメージとか、頭の中でいろいろとイメージをめぐらせながら、考えるための時間でもあります」
自由に試行錯誤できることに楽しさややりがいを感じつつも、同時に難しさもあるという、神野さん。
「その日の調子で思うような形になったり、ならなかったりするからやっぱり難しさは感じますね。僕は脱サラして、この世界がおもしろそうだと思って始めて、修業はほとんどしてないので、いわゆる“たたきあげ”の職人さんと比べると、考えたり悩んだりすることがきっと多いと思うんです。職人さんはおそらく手が勝手に動いて、体が技を覚えているけれど、僕は『本当にこれでいいんだろうか?』と悩みます。でも、すごく遠回りをしてでも、試行錯誤しながらつくっていくのが性に合っているのだと思います」
「型にはまらないものづくり」ができるのは、個人で技を磨いてきた神野さんの技術があってこそ。例えばこちらの器。「しのぎ」という縦に入った筋が特徴ですが、一般的にはカンナやヘラで行う技を、ノミを使ってひとつひとつ丁寧に彫っています。
一般的な着色ではなく、染色することで木目を潰さずに素材本来の風合いを生かしながら艶やかな表情を演出しています。あたたかみのある素材ゆえ、手づくり感が出すぎてしまうこともある木工作品。しかし、神野さんはあえて「あたたかみが出すぎないようにしている」といいます。
「もともとデザインの仕事をしていたので、ラインやシルエットにはこだわっています。ほかの人が木材ではつくらないような、整ったラインやデザインチックなシルエットというのかな。これは感覚的なものだから言葉にするのが難しいけど、ほっこりしすぎないところが僕の作品の特徴だと思っています」
思い通りにいかない木という素材を扱うのが楽しく、「飽きることがないです」と笑顔で話す神野さん。子どもの頃から絵を描いたりものづくりをしたりするのが大好きな図工少年だったそうで、
自然なかたちでデザインの道へ進んでいったといいます。使っても飾っても、さまになる神野さんの木工作品。その背景にはデザイナーとしての経験と感覚が生かされているようです。