〈くにさきかたち工房〉の器や皿が並ぶ
連載|日常を楽しくする、大分の手仕事

国東半島の身近な素材を使ってつくる器。
〈くにさきかたち工房〉垣野勝司さん

Posted 2025.02.07
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自宅のすぐ隣の田んぼで米を自家栽培。
海と山に挟まれ、土とともにある暮らし

瀬戸内海に、タコの頭のような形で突き出している国東(くにさき)半島。その頭のてっぺんの位置に、〈くにさきかたち工房〉はあります。工房を開いたのは、2012年に千葉県から国東市に移住した垣野勝司(かきのかつし)さん。海にも山にも近い豊かな自然に囲まれた場所に暮らし、さまざまな技法を試しながら、身近にあるものを使って作陶しています。

〈くにさきかたち工房〉の作品ディスプレイスペース
2024年夏には、工房のすぐそばにギャラリーカフェをオープン。すぐ裏手の緑深い山が、窓辺に季節の彩りを添えてくれます。

垣野さんは東京の美術大学の工芸工業デザイン科出身。大学を卒業した20代の頃、千葉の実家近くのテナントを借り、友人たちの作品を集めたクラフトショップを始めます。ただ、手づくりのものはどうしても高価になってしまい、販売に結びつかないことが多かったとか。そこで「手軽な価格の、手に取りやすいものをつくろう」と始めたのが、焼き物。作陶のきっかけになりました。

陶芸教室も開き、2004年からは千葉や東京でも個展を開催。飲食店の食器も手がけるようになっていました。そんななか、東日本大震災を経験します。当時はお子さんも幼く、安心して子育てと生活、作陶ができる環境を求めて選んだのが九州。なかでも、当時としては移住政策が進んでいた大分県で物件を探し始めます。

「大分が一番、空き家物件を紹介していたんですよ。いろいろ見て、結局ここに落ち着いて。あの家があったことが大きいかな」

作陶用の土をこねる垣野勝司(かきのかつし)さん
大学時代は、無機質な感じや、いかようにも形を変えられる素材に魅力を感じ、プラスチックを専攻していたという垣野勝司さん。「だから陶芸は独学なんですよ」
ろくろを引く手元
ろくろを引くときも、垣野さんはすべて手作業。「道具を使ってもっと上手につくる人もいるんですけどね。僕は使いこなせないから、手だけでやっています」

ネットで見つけたという大きな古民家は、すぐそばに緑深い山々があり、数十メートル先は穏やかな瀬戸内の海が広がっています。

「僕は千葉の出身ですが、この辺りの雰囲気が房総半島に似ていて、“馴染みがいいかな”って。山がそんなに高くなくて、海が近くて」

2012年に家族とともに移住。この地を選んだきっかけとなった大きな古民家は、自宅兼工房、展示ギャラリーとなりました。

自宅兼工房の一軒家外観
この家が決め手となって移住。
ろくろを引く垣野さん
「千葉でも田舎のほうに住んでいたんですよ。ただ、自然には近いんだけど、いろいろな雑音があるというか。ここのほうが自然のなかに住んでいる感じはしますよね。本来の自然に近い。“ものをつくる環境としてはいいのかな”と思っています」

古民家を中心に、海側には2か所、計1反1瀬の田んぼが。

「家のすぐ隣が田んぼというのは、珍しくて。すごくラッキーでした」

田んぼでは、家族で食べるための米を自家栽培しています。5瀬の畑もあり、現在は奥様が畑の担当。自宅で食べる季節の野菜は、家を出るとすぐの畑で収穫できます。

「本当はもっと畑もやりたいけど、いまは余裕がないですね」

工房の裏手に広がる田んぼ
工房のすぐ裏手にある田んぼ。ここでお米を自家栽培しています。「いまはスタッフもいるので、田植えはみんなでやっているんですよ」

千葉で作陶をしていた際にも、陶器の周りに稲藁を巻いて焼き、独特の模様を出す、備前焼の「火襷(ひだすき)」の技法も取り入れていたのですが、「自分がつくった藁を使いたい」という思いもあったという垣野さん。すぐそばに田んぼがある大きな古民家は、理想の物件でした。

工房の軒先に皿や器が積まれている

鳥やひょうたんなどモチーフの箸置き4種
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