
国東半島の身近な素材を使ってつくる器。
〈くにさきかたち工房〉垣野勝司さん | Page 2
日常を彩る「きなり」と「黒刷毛」の器
垣野さんの器は、素朴で温かみのある風合いも魅力のひとつ。薪ストーブにできる灰、自家栽培している稲の藁、目の前の海で拾ったシーグラスなど、身近にある素材を使っていることもその魅力につながっているのかもしれません。


ぽってりとしているのに、繊細な質感のある「きなり」シリーズの釉薬に使っているのは、工房の薪ストーブで生まれる灰。ろくろを引いて整形、素焼きしたあと、粉引の技法で、白い化粧土を刷毛で塗り重ねます。器をそのまま化粧土につけ込む陶芸家も多いなか、垣野さんはあえて何度も刷毛塗り。
「そのほうが、味が出るというか。手間はかかるんですけどね」

その後、灰の釉薬をかけて、本焼き。現在は、工房のすぐ外にあるガス窯で焼き上げます。

実は、定番のきなりが生まれたのは、自家栽培した稲藁で火襷をしているときでした。
「余っていた(火襷をしていない)器に釉薬をかけたら、“これはおもしろいな”と。それがメインになった感じです」
化粧土を何度も重ねることで生まれる釉薬の濃淡や、古びたように見える風合いも、きなりの特徴です。

もうひとつの定番は、「黒刷毛」。きなりと同じ粉引の技法を用いますが、こちらは黒い化粧土を刷毛塗りします。刷毛目はほとんど現れておらず、どれも“真っ黒”ではないのもおもしろいところ。濃紺のようだったり、黒の中に鮮やかな青みが混ざっていたり。それぞれに黒っぽさやブルーの濃淡が違っているのも、黒刷毛シリーズの特徴です。
「化粧土を黒くするために、原料に酸化金属や鉄、コバルトなどを入れているので、その調合で青く出る。それも、ちょっとおもしろいなと思っています」

国東で新たに始めたもののひとつが、すぐそばの海岸で拾ったシーグラスを使うこと。
「遊びで始まったものが、広がりつつある感じですね」
そのまま使うのではなく、一度焼いて溶かしたものを使っているといいます。「迷いもありながら、“いまある素材でできること”を考えています」と垣野さん。

パステルカラーのようなきれいな色合いの“ラスター彩”を使った器づくりにも取り組んでいます。マグカップやお皿など、食卓できなりシリーズと並べて使うのもすてき。

上絵の具を使った「クレーの器」は、スイスの画家、パウル・クレーにオマージュを捧げたシリーズ。本焼きをしたベースに、粉状の上絵の具を指で擦りつけながら、パステル画のように仕上げていくそう。その後800度で焼き上げ、完成させます。