
空間再生と地域デザインに挑む
〈HAJIMARI Beppu〉を開業。
〈DABURA.m〉光浦高史さん | Page 2
別府の魅力に触れ、暮らすように滞在する。
〈HAJIMARI Beppu〉の楽しみ方
別府市南部エリアに完成したHAJIMARI Beppu。道路沿いに大きくとられた開口部から館内を満たす心地よい騒めきと活気を感じさせる1階は、宿のレセプションとロビーラウンジ、カフェ、ライブラリー、コワーキングスペースとしても利用できる開放的なスペースです。

〈喫茶ゆあみ〉では料理家のワタナベマキさんが監修した「湯治のためのスープ」や、ビル内でひと足先にオープンした、うみとじかんの焼き菓子、台湾料理の定番である鶏肉飯(ジーローハン)など、地域の生産者から仕入れた食材でつくるフードとドリンクを提供。
「湯を浴びるという意味に加えて、温泉地での療養=湯治という古くからある習慣を意味する“ゆあみ”という言葉にかけて、体にやさしいメニューを提供しています」(高史さん)

大きなテーブルを囲むテーブル席、ソファ席やベンチ席などが選べる〈HAJIMARI LOUNGE〉は宿のロビーラウンジと喫茶スペースを兼ね、月2回ほど開かれるイベントの会場にもなり、アーティストの作品を見せるギャラリーとしての機能も。物販スペースには、坂本和歌子さんの器をはじめ、地域やHAJIMARI Beppuに関わりの深いクリエイターやアーティストたちの作品やグッズが並びます。

ライブラリーには、「文筆家の甲斐みのりさん、料理家のワタナベマキさんなどの著書、選書していただいた本、藤田洋三さんの写真集、アートを軸に活動するNPO〈BEPPU PROJECT〉の取り組みの関連書籍、別府の歴史をたどる本などが並んでいます。こちらの本はラウンジでも、宿泊のお客様なら客室でも、館内で自由に読むことができます」
奥に続く建築事務所のスペースの手前には建築の専門書、アートブックや、哲学書などが並ぶ本棚が置かれ、こちらももちろん閲覧OK。太っ腹です。

客室は3~4階。かつてオーナー家族が暮らした2フロアが、サイズも間取りも異なる6部屋に改修されました。
「長期滞在をして仕事や制作に打ち込めるように、部屋ごとにレイアウトと家具のセレクトを変えています。室内やテラスに大きなスペースを設けていたり、複数人での打ち合わせにも使える大きなテーブルを置いたり、集中しやすい環境をつくってデスクを配置したり。ベッドの数も部屋によって違い、貸し出し布団を合わせれば最大5名まで宿泊できる部屋もありますよ」

注目すべきは最上階に位置するユニバーサルルーム。電動ベッドを備え付け、エレベーターから室内まで段差をなくしてバリアフリーを実現。別府市在住の画家、イラストレーターの網中いづるさんがこの場所で制作した大きな絵画が展示され、アートを親密に感じさせる空間がつくり出されています。

「網中さんをはじめ、安部泰輔さん、藤田洋三さん、〈Olectronica〉のふたり、宿主人である坂本和歌子など、大分県在住のアーティストによる作品が各部屋に展示されています。今後は3階から屋上までを結ぶ階段スペースもギャラリーとして活用していく予定です」

徒歩圏内に共同温泉がいくつもあるこのエリアならではのサービスとして、「1泊あたり1湯無料のチケットと、部屋に備えつけた温泉セットを持って湯巡りを楽しんでもらえたら。そうそう、大分在住の美術家、安部泰輔さんの“おふくろうさん”という作品は、湯巡りやお買い物のお供に持ち出すこともできますよ」


館内に置かれた家具のバリエーションと味わい深さも印象的です。実はこれらの家具は、大分県内各地と東京・目黒から運ばれてきたもの。
「地域の方々にお声がけして、思い入れがあるけれどいまは使っていない椅子をお譲りいただき、修繕、メンテナンスして使っています。リメイクした椅子の張り地は、別府で活動するユキハシトモヒコさんの温泉染め。色鮮やかで手触りのよい生地です。1階の大きなテーブルやソファなどは、目黒〈HOTEL CLASKA〉閉館の際に譲り受けた家具も多く、CLASKAを知る方には懐かしんでもらえると思います」

