佐伯市に移住し〈cafe KOYOMI〉をオープンした増村夢香さん
連載|あの人に会いたい!

東京でのキャリアを生かして
佐伯に〈cafe KOYOMI〉をオープン。
増村夢香さん

Posted 2022.08.02
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東京であこがれの世界へ飛び込んで

佐伯市の佐伯城跡にほど近い、お寿司屋さんも多く立ち並ぶまちの一角にある〈cafe KOYOMI〉。こぢんまりとした店内にはセンスのいい家具や雑貨が並び、ゆったりとした雰囲気が漂います。この日ものんびりランチを楽しむ人や、テイクアウトのカレーを買いに来るお客さんも。

「今日は地域のイベント用にと、スコーンの注文も受けているんです」とうれしそうに話すのは、店主の増村夢香さん。2016年に東京から移住し、2017年の6月にKOYOMIを開店してから5年。地域の人たちの間で着実に定着しているようです。

〈cafe KOYOMI〉の店内
清潔感があり、温かみのある空間が広がります。

ひとりで店を切り盛りする夢香さんですが、実はもともと料理が大得意というわけでも、まして自分でカフェをやろうと思っていたわけでもないそう。栃木県出身で東京の短大に進学したものの、やりたいことが見つからなかった夢香さんが出合ったのが、映画『かもめ食堂』。その世界観に魅せられたのと同時に「こんな職業があるんだ!」とあこがれたのがフードスタイリストでした。

雑誌やテレビ、映画やCMなど、さまざまな撮影現場で料理からテーブルセッティングまでトータルで演出するフードスタイリスト。その第一線で活躍する飯島奈美さんが『かもめ食堂』で注目され、その職業も広く知られるように。ただ、どうしたらなれるのかもわからず、まずは料理について知ろうと考えた夢香さんは、東京で複数店舗を展開するカフェで働き始めます。

店内にディスプレイされた雑貨類
店内には、夢香さんが気に入って集めた雑貨や家具などが。

最初はキッチンに入ったものの、その後、社員になってホールに出るように。やがて代官山店の店長も務めるなど、忙しくも充実した日々を送っていましたが、あるとき、フードスタイリストになりたいんじゃなかったっけ……? と、はたと気づきます。

その頃、たまたま飯島さんがアシスタントを募集していたことを知った夢香さんは、募集期間が過ぎていたにもかかわらず、熱い思いを手紙にしたため、なんとか臨時のアシスタントとして働けることに。

二人用のテーブル席
木の椅子も古くて味わい深いものを集めました。

それまでの飲食業界とはまったく違う世界に飛び込んだ夢香さん。さまざまな分野のプロが集結する撮影現場では多くのことを学んだといいます。
「厳しい世界だとは思っていましたし、かなり勉強して入ったつもりでしたが、それでも大変でした」

飲食店では、いかにロスを出さず、コストを抑えて店を回転させるかということが重要ですが、撮影現場では、短いシーンでもいかに美しく、すてきな世界をつくりだすかに膨大な時間とお金が費やされます。それはそれで華やかな世界、刺激もあって楽しかったものの、あらためて自分と向き合うことに。

「私はお店で食べたい人にお料理を出して、ひと皿を残さず食べてもらうということのほうに、価値を見出せた気がします。飯島さんや先輩たち、プロの仕事を目の当たりにして、自分にはここまではできないなと。逆にお店での接客や雰囲気づくりは私の得意分野なのかもしれないと思いました。私は『かもめ食堂』の主人公のサチエさんにあこがれていたんだと気づいたんです」

木のぬくもりが感じられるカウンター席

こうして、再び飲食業界へ。人気飲食チェーンの新しい業態のレストラン立ち上げに携わるなど、また慌ただしい日々を送るように。

30歳になり、働き方を見直したいと思っていた頃に、ミュージシャンである現在の旦那さん、増村和彦さんと出会い、結婚。和彦さんはいずれ地元の佐伯にUターンすることを考えていたそうで、夢香さんも「東京ではやり切った、これからの人生は田舎もいいな」と佐伯への移住を決意。でもまだそのときは、自分でお店をやろうとは思っていませんでした。


〈cafe KOYOMI〉で人気のスコーン
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