〈ザ・キャビンカンパニー〉の阿部健太朗さんと吉岡紗希さん
連載|あの人に会いたい!

〈ザ・キャビンカンパニー〉
廃校アトリエからおとぎ話を紡ぎ出す
絵本作家ユニット

Posted 2022.02.22
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独創的な作品が生まれるところ

別府駅から車で約30分。野焼きされた草原と山々の間を走り抜け辿り着いたのは、なんとも長閑な農村地帯。

今回、私たちは廃校の校舎にアトリエを構えて活動する絵本作家ユニット〈ザ・キャビンカンパニー〉の阿部健太朗さんと吉岡紗希さんを訪ねて、由布市内の旧石城西部小学校へと向かいました。細い坂道を上がっていくと、古き良き時代の趣きを残した赤い屋根の平屋校舎と運動場が見えてきました。

旧石城西部小学校の外観
旧石城西部小学校。桜の花の形をした昔の校章もそのまま。※アトリエは、イベント時以外の見学は行っておりません。

運動場に面したドアを開けるとそこは元職員室だった部屋。ここがザ・キャビンカンパニーの作業部屋です。自然光の入る窓に向かって作業机が2台並べられ、その上には使い込まれた画材道具が、ふたりの取りやすい位置に配置されています。

訪問した当日も、もうすぐ出版予定だという絵本用の絵を黙々と描くふたり。それぞれの机や床には、絵を塗るときについたであろう絵の具のカラフルなポチポチ跡がたくさん。まるでこの場所から生まれ世に旅立っていった作品たちの小さな足跡にも見えて、思わず「ふふふ」と顔がほころんでしまいます。

色鉛筆を使って原画を作成中
絵の具、カラーペン、色鉛筆など、さまざまな画材を用いて1枚の原画を完成させます。

ザ・キャビンカンパニーがこれまでに出版した絵本は約30冊。

デビュー作の絵本『だいおういかのいかたろう』
デビュー作『だいおういかのいかたろう』(鈴木出版)は海外版も出版されています。

第20回日本絵本賞読者賞を受賞した記念すべきデビュー作『だいおういかのいかたろう』、珍しい色に光る信号機が主役の『しんごうきピコリ』、自ら焼き上がった(!?)パンたちが活躍する『どうぶつパンパン』などなど、ダイナミックな絵柄と奇想天外なストーリーで子ども心をくすぐる作品をたくさん描いてきました。

南国のような風景が描かれた絵本の1ページ
東京の編集者に「キャビンさんの絵本に出てくる自然がなぜ南国風なのかが、大分に来てわかった」と言われることがあるそう。「絵に土地柄が出るので、大分にいて制作することがいまの絵の強みにもなっていると思います」(紗希さん)

最近では絵本だけの活躍にとどまらず、舞台美術やキャラクターデザインなども手がける多才ぶり。少し前には、あいみょんのツアーパンフレットにもザ・キャビンカンパニーの絵が起用され、彼女の「推しクリエイター」としても注目を集めています。

ダンス公演『オバケッタ』の舞台美術のマケット
2021年7月に東京・新国立劇場で上演されたダンスカンパニー〈Co.山田うん〉のダンス公演『オバケッタ』の舞台美術のマケット。実際の舞台も絵本をめくるような仕掛けになっていたそう。

ふたりが現在の場所にアトリエを構えたのは、2011年のこと。

大学在学中につくった大型の立体作品や絵画を保管できる場所を探していた健太朗さんと紗希さん。あるとき、県内にある廃校校舎の存在を知り、見つけたのがこの場所だったそうです。

教室内に展示された立体作品の数々
中央の船が大学時代の作品。約4メートルもある大作です。

「県内の廃校を探していくつか見てまわったんですよ。大分県は過疎化で、たくさんの廃校ができてしまっていることを知っていたので……」(紗希さん)

「3階建て鉄筋コンクリートの学校も見せてもらったんですけど、ふたりで借りるにはちょっと大きすぎるねって話になって」(健太朗さん)

「いくつも廃校を見てまわるなかで、ここに作品を置いてみたいと思ったのが、青い空、赤い屋根、緑の自然にあふれる、この旧石城西部小学校でした」(紗希さん)

インタビュー中の吉岡紗希さん
吉岡紗希さん。大学入学当初は絵を人に見せるのが恥ずかしくて「隠して描いてました(笑)」

旧石城西部小学校の廊下
【 Next Page|旧校舎を借りる条件とは? 】

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