土間のキッチンでコーヒーを淹れる野口奈々絵さん
連載|あの人に会いたい!

杵築市山香の暮らしを感じる古民家宿
〈yamakaoru〉〈matai〉
野口奈々絵さん&泰秀さん | Page 2

Posted 2025.08.29
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旅が導いた山香移住と古民家リノベ

もともと東京で暮らしていた奈々絵さんと泰秀さん。ふたりが山香町で暮らすようになったきっかけは、泰秀さんが2018年に始めたバイクの旅でした。

「6年間勤めた不動産会社を退職して、当初は海外にでも行こうと考えていました。けれど、ふと『そういえば日本のことをあまり知らないな……』と思ったんです。ちょうど実家に親父の〈スーパーカブ〉があって、昔からキャンプも好きでしたし、じゃあこれに乗って日本を見て回ろうと思って旅を始めました」(泰秀さん)

野口泰秀さん
古材をレスキューし活用する〈リビルディングセンタージャパン〉を経て、いまは大工として働く夫の野口泰秀さん。

各地を転々とするなか、友人の勧めで立ち寄った山香町で地元の人々と意気投合。いったん旅を続けて沖縄へ向かったものの、帰路でふたたび山香へ。

地域のイベントを手伝いながら数週間を過ごすうち、この土地の穏やかさと人の温かさにすっかり魅了され、山香が大好きになったと言います。

窓の外に広がる田んぼの風景

やがてその体験は、奈々絵さんにも広がっていきます。

泰秀さんから「ここは人との距離感が心地いい」と聞かされ、奈々絵さんも旅行で山香を訪れました。そこで地元の人々の「ないものはつくる、あるものは直す」という暮らし方を目の当たりにし、そのたくましさと美しさに胸を打たれたと言います。

「地元の方たちと一緒にお昼を食べたとき、その家の庭にあった柿の葉をちぎって、その場で衣をつけて天ぷらにしていたんです。暮らしの知識をさらりと実行できる一連の流れが、私にはハッとするほど衝撃的で心に刺さったのを覚えています」

談笑中の奈々絵さん

その後、奈々絵さんは2018年10月には地域おこし協力隊に応募、翌年1月から地域おこし協力隊として、杵築市の移住定住係に着任しました。

一方の泰秀さんは旅を終えると、長野県諏訪市の〈リビルディングセンタージャパン〉で1年間修業を積み、現在の大工の仕事へとつながっていきます。

ランプシェードやケーキスタンドが並ぶリビングの棚
リビングの棚には泰秀さんが古い家の敷居などを加工してつくった木製のランプシェードやケーキスタンドなどが並べられており、購入が可能です。

ひと足先に現地での生活をスタートさせた奈々絵さん、次はふたりで暮らせる家探しが始まりました。

「いつかはこの土地で宿をやってみたい」。そんな思いを胸に、奈々絵さんは毎週末、軽トラックで集落を巡りました。ふたりで定めた家探しの条件――静けさ、屋根の堅牢(けんろう)性、広さ――にかなう空き家を探し続け、ようやく出合ったのが、築約150年、空き家歴25年のこの古民家でした。

〈yamakaoru〉の外観
築約150年の古民家を改修。泰秀さんは大工の仕事を通じて、古い家の雨漏りのダメージを実感していたので、建物は古くとも屋根がしっかりしていることがふたりにとって大切な条件になりました。

さぁ、ここからはリノベーションの日々のはじまりです。

毎週末、市内のアパートから古民家へ通い、約1年間改修を続けました。暮らせる状態になったところで、住みながら直す段階へ。そこからさらに約2年半をかけて、衣食住の土台が整った家へと仕上げていきました。

最大の難所は浴室。「給水・排水・防水・左官・電気、全部が交差する場所でした」と奈々絵さん。ときには夜中に天井の漆喰が落ちるという失敗もありましたが、自分たちの家だからこそ実験ができる。失敗はすべて次の一手の糧になったと笑います。

リノベーションされた洗面所とお風呂
既製のユニットバスをはめ込むという簡単な選択肢もありましたが、あえてそれはせずに一からリノベーションすることに。リノベーションの様子はこちらの記事でも紹介しています→大分移住手帖

奈々絵さんが一番気に入っている土間のキッチンは、畑から戻っても気兼ねなく使える利点がある一方、冬の底冷えや掃除の手間が難点。それでも「知らなかったから踏み出せたし、いまはこのキッチンが好き」と言い切れるのは、火のある時間や、季節のリズムがもたらす心地よさを知ったからにほかなりません。

キッチンに立ちコーヒーを淹れる奈々絵さん

こうして試行錯誤を重ねながら少しずつ改修を進めた家は、ゲストを受け入れられるまでに整い、1日ひと組限定の民泊、yamakaoruとして歩み始めました。

壁に飾られた烏骨鶏の絵

一棟貸しの宿〈matai〉のキッチンへの続く引き戸
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