山々が広がるSUIGEN農園からの眺め
連載|あの人に会いたい!

国東半島で植物と暮らす。
プロダクトブランド〈SUIGEN〉と
カフェ〈百種〉を営むアントン沙莉さん | Page 3

Posted 2025.09.26
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植物との共生から生まれた新たな目標

ようやく「ふるさと」と呼べる場所を見つけた沙莉さんの心には、すでに次なる夢が芽生えています。今後について尋ねると、ふたつのアイデアを語ってくれました。

ひとつ目は、裏山を生かした新しい「楽園」づくりです。いまはまだ手つかずの裏山を少しずつ整え、多種多様な植物をできるだけ自生に近いかたちで育てたいと考えています。訪れる人が散策しながら野山の香りや風に触れられるようになれば、植物の魅力をより身近に感じてもらえるはずだと期待しているそうです。

裏山にあるSUIGEN農園の一角
裏山にあるSUIGEN農園の一角。正面奥に日本ハッカ、左手奥にはホーリーバジルなどが植えられています。
農園内で育った日本ハッカ
日本ハッカが青々と育っています。

「実現できるかどうかはまだわからないですが、いずれはマニアックな植物好きの方のリクエストに応じて、裏山で少量の植物を育て、それらを蒸留して香りとして届けられるようになったらいいなと思っているんです」と、笑顔で思いを語ります。

日本ハッカを収穫中の沙莉さん
収穫かごにたくさん入ったハッカ
収穫したてのかごからはハッカ特有のスーッとした香りが。収穫中は手元もかなり涼しくなるそう。

そして、ふたつ目のアイデアは、旅先での小さな蒸留活動です。

「性格的に、どうしても出かけたくなってしまうので、旅先には小型の蒸留器を持っていきたいんです。その土地で出合った植物や風土を感じ取れるようなものを抽出して、それをボトリングしたり、食品に活用したりして、みんなとシェアできるかたちにしたいと考えています」

農園内で咲いていたホーリーバジルの花
ホーリーバジルの花が咲いていました。
農園の木々の合間の先に、水田や山々が広がっている
SUIGEN農園からの眺め。

ただ製品を増やすことや事業を大きくすることを目標にしているわけではありません。商売を第一に考え、大量のハーブを育てて大規模にプロダクトを展開することには、あまり興味がないと沙莉さんは言います。

むしろ彼女にとって魅力的なのは、各地で出合った植物から与えられる小さな感動を、少しずつ積み重ねていくこと。その小さな感動こそが、彼女の創作の原動力であり、日々を豊かにしてくれる喜びなのです。

農園内で作業中の沙莉さん

生まれ育った土地を「ふるさと」と呼べずに育った沙莉さんにとって、豊後高田の自然に囲まれた暮らしはようやく得られた拠り所です。だからこそ、いまここから新たに生まれる夢はとても大切なもの。裏山に広がる楽園づくりと、旅先で瓶に詰める“もうひとつの自然”、そのどちらも、彼女の歩んできた人生と深く結びついています。

これからどんなかたちでその思いが実を結んでいくのか。植物との共生から芽生える沙莉さんの挑戦は、これからも続いていきます。

アントン沙莉さん
Profile アントン沙莉

広島県生まれ。植物のプロダクトブランド〈SUIGEN〉主宰。現在は大分県豊後高田市を拠点に、2023年にオープンしたカフェ〈百種(ももくさ)〉を運営。地域に根ざした活動を続けながら、「植物との共生」をテーマに新たな挑戦を広げている。

Information
百種
address:大分県豊後高田市新城595-1 2F
access:JR宇佐駅から車で約20分
営業時間:土・日・月曜 10:00~17:00
定休日:火~金曜
Instagram:@momokusa_

*価格はすべて税込です。

credit text:川上靖代 photo:木寺紀雄

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