〈喫泡うたかた〉を営む桑島孝彦さん
連載|あの人に会いたい!

竹田の魅力を伝えたい!
「旅するパエリア」桑島孝彦さんが
長湯温泉〈喫泡うたかた〉で考えていること

Posted 2025.11.28
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ミネラル豊富な炭酸温泉を料理に

中央には芹川が流れ、すぐそばに迫る山々。竹田市の長湯温泉の温泉街には、豊かな自然と、昔ながらの“温泉場”の情緒が残っています。そんなまちの中心部。芹川沿いに建つ歴史を感じさせる日本家屋に2025年4月、〈喫泡(きっぽう)うたかた〉を開いたのが、竹田市出身の桑島孝彦さん。

〈喫泡うたかた〉の外観
長湯温泉街の中心を流れる芹川沿いに建つ〈喫泡うたかた〉。情緒あるレトロな佇まいもすてきです。
アンティーク家具が並ぶ〈喫泡うたかた〉店内
奥には広いテーブル席も。以前、茶房として営業していた頃の家具などを使いつつ、配置を変えて空間を整理。予約制ですが、夜はコース料理もいただけます。

長湯温泉に湧いているのは、世界的にも珍しい、ブクブクとラムネのような泡が立つほどたくさんの炭酸ガスが溶け込んだ温泉。しかも、ミネラルが豊富に含まれた硬水です。飲用も可能で、古くからまちの人や旅人を癒してきました。その効能は、昭和初期、温泉治療の研究者が「飲んで効き 長湯して利く 長湯のお湯は 心臓胃腸に血の薬」と称えた句を詠んだほど。

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長いカウンターが設置されたテラス席
外には、川沿いのテラスも。秋や春の心地いいシーズンには、「川の音を聞きながら、ごはんを食べてもらうのもいいかな、って」と、桑島さん。

うたかたでは、この炭酸温泉を使った料理で訪れる人をもてなしています。温泉水でパスタを茹でたり、パエリアを炊いたり。コーヒーは、温泉水と町内に湧く湧水で淹れたもの、2種類を用意しています。

「地熱珈琲」を使ったコーヒー
温泉の地熱蒸気で洗い焙煎した「地熱珈琲」を、温泉水と湧水で淹れたコーヒー。器は、うたかたのマスターでもある陶芸家、甲斐哲也さんによるもの。

食べる人を魅了する料理をつくる桑島さんですが、実は「料理人」という言葉では説明できないほど、活動は多岐に渡ります。うたかたもそうですが、地元の城下町にレストラン〈Osteria e Bar RecaD(オステリア・エ・バール・リカド)〉を開いたのは、「竹田を盛り上げたい!」という地元愛が出発点。

「竹田の城下町もそうだけど、過疎化するまちは、人との交流を避けてしまう癖がある。でも新しい交流を生むことで、まちは新しく変わっていくんじゃないかと思うんです」

厨房に立つ桑島さん
竹田市の城下町出身の桑島孝彦さん。東京でイタリアンを学び、地元で〈Osteria e Bar RecaD〉を開業。地元の産品や温泉水を使った料理を提供していました。

いつくかの古民家をリノベーションしてゲストハウスにしたり、イベントを開催するなど、過疎化の進行が著しいまちに交流を生もうと、さまざまな方法を重ねてきました。

ゴツゴツとした表面が印象的なカウンター
「沈殿していく温泉をイメージした」という、うたかたの入り口にあるカウンター。長湯の土に、パエリアに使うサフランや、長湯の炭酸泉の沈殿物のカケラなどを混ぜ込んで塗っています。

活動は多岐に渡る桑島さんですが、「料理人である」というこだわりはないと言います。

「誰か別の人が温泉水でパエリアをつくってくれてもいい。温泉水を使った料理を、みんなに広めたいんですよ。健康になるでしょ」

〈喫泡うたかた〉店内のカウンター席
昼夜で目的を変えるカウンター席。昼はコーヒーを飲みながらレコードを聴いたり、マスターと話したり。夜はバーになり、飲みたい人だけでなく、桑島さんと語らいたい人たちも集います。

竹田に魅力を増やす第一歩となったリカドは、移住者の女性料理人にバトンタッチ。温泉水と地元の農産物を使うことを条件に、アイデアや生産者の情報を共有しながら、現在は〈Kana’s kitchen at RecaD〉として営業しています。

「僕の料理じゃなくても、同じことが広まってくれるならそれでいい。それにあまり長く同じ場所に居続けると重鎮みたいになってくるから、僕も偉そうなこと言い出したら嫌だなって(笑)」


温泉水でパエリアを炊いている
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始めたきっかけは…?

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