竹田の魅力を伝えたい!
「旅するパエリア」桑島孝彦さんが
長湯温泉〈喫泡うたかた〉で考えていること | Page 3
集大成であり、基点であり起点。
〈EUKARYOT〉で目指すもの
「『当たり前の上に、僕らが立っているのではないんだな』ということを実感するための場所ですね」
そう言って桑島さんが連れて行ってくれたのは、国立公園に隣接する、九重町の高原の一角。見渡せば、硫黄山、星生山、久住山などのくじゅう連山がそびえ、周囲には圧倒させられるような雄大な自然が広がっています。

ここで桑島さんは、宿泊施設やパエリアを味わえるレストランを備えた交流拠点〈EUKARYOT(ユーカリオ)〉をセルフビルドで建設中。“当たり前”と感じている自然や環境を見つめ直し、語り合える場になれば、とも考えています。
自身の故郷でもある城下町竹田で、竹田愛を発信し続けてきた桑島さん。伝えたいことは、竹田の豊かさ、食材のすばらしさ、そしてほかにはないミネラルが豊富な温泉水があること。
しかし数年前から、その伝え方を変えたほうがいいのではと考え始めていました。「自然のなかでおいしい料理を食べれば、情報があふれている場所より、より食に意識を向けられるのではないか」と。
2019年、久住高原でフェスを開き感じた手応えも、その思いを後押しします。
2020年の5月。コロナ禍の真っ只中に、運命的な出会いが訪れます。「何もないけど、土地はあるよ」と紹介されたその日に、リカドのランチ営業を終えてすぐに車を走らせ、到着したのがここ。
「『もう、ここだわ!』みたいな。この景色がすばらしい」
ひと目で魅了されました。冬になり再訪してみると、「(春に茂っていた木々の)葉っぱが全部落ちていて、その向こうにくじゅうの山がすごくよく見えて。その景色もすごかったんです」。あらためてこの土地の良さを実感し、動き始めます。

しかし、本当に何もない場所。まずは整地から始める必要がありましたが、桑島さんはすべてセルフビルトすることに決めます。
「DIYも結構やってきたし、新築もやってみるか!」と始めてみたものの、「到底進まない……。3年くらい、ひたすら穴を掘るとか、裏の川を整備したりしていました」。

そしてようやく、多くの仲間たちの協力を得て、次第にかたちが見えてきました。メインの建物は2階建てで、広いウッドデッキを備えた、オーベルジュのような宿泊施設とレストラン。ライブもしたいと計画しています。

すぐ隣には、コンテナハウスのスタンド。ここでは、立ち寄った人が気軽にパエリアなどを注文できるようにする予定。夜は、世の中のいろいろなことを「咀嚼するようにしゃべろうよ」と名づけられた「咀嚼バー」に変わります。

現在も絶賛建築中ですが、時々イベントを開き、桑島さんの思いに賛同してくれる人たちや仲間とともに、さまざまな思いや理想、将来について咀嚼しながら語り合っています。

「竹田を盛り上げたい!」と言い続け、行動してきた桑島さんに賛同してくれる人も、次第に増えてきました。竹田に活気を取り戻すためのアイデアも、多くの実践を重ねることで「筋が通ってきた」とも。
料理はレシピを伝えることができます。しかし、桑島さんのビジョンは「僕しか見えてないので、僕が信じるしかない。いまは、それを手伝ってくれる仲間を探す旅をしている最中かな、と思っているんです」。これまでも多くの場所に出かけ、自身を通して竹田の魅力を伝えてきました。
「(過疎化になったまちの人たちは)人を呼ぶ努力を、『田舎には何もないから』という言葉に置き換えてしまってきた。そして『田舎』という言葉が、いつしか悪い言葉になっていた。そうやって自分たちで魅力を伝えずにきてしまった数十年を、僕は取り戻せると思っているんです」
まだまだ建設の終わりは見えません。しかし、「田舎」に魅力を求めて全国から多くの人が集まる拠点となることを想像しながら、2026年内のオープンを目指し、桑島さんはコツコツとセルフビルドを続けています。

圧倒的な自然に囲まれた高原の真っ只中に立つ、“田舎の”新たな交流拠点。そこにどんな人が集うのか、何が生まれるのか、どう育つのか。まずは、完成を待つしかありません。

大分県竹田市生まれ。「竹田にライブハウスをつくりたい!」と、音楽大学進学を機に上京。そこでイタリアンレストランやシェフと出会い、自身も食の道に。また、〈Backpackers’ Japan〉と出合い、東京・蔵前の〈Nui.〉のリノベーションを手伝うなかで、現在〈ReBuilding Center JAPAN〉の代表を務める東野唯史さんと知り合い、内装やリノベーションを学ぶ。2013年に愛する地元に帰郷。以降、古民家をリノベーションした〈Osteria e Bar RecaD〉を皮切りに、竹田市内の古民家の再生や、竹田を魅力的なまちにするべく、新たな文化づくりに取り組み続けている。web|ユーカリオ協同組合
credit text:河野恵 photo:ただ(ゆかい)