江戸時代から続く
老舗茶舗〈お茶のとまや〉。
城下町杵築が誇る280年の伝統と
おもてなしの心 | Page 2
江戸時代から大切にしてきた、お茶へのこだわりと歴史の味
長きにわたって受け継がれてきた茶葉への目利きと製茶の技術でつくり上げられた煎茶。ひと口飲むと、濃厚なうまみが口いっぱいに広がり、爽やかな渋みが喉を通り抜けます。そんなお茶のお供として愛され続けているのが落雁〈豊生〉です。江戸時代に6代目当主の妻がつくり上げた味を忠実に再現し、日常で食べられるのはもちろん、おもてなしや慶弔行事の引き出物としても親しまれてきました。
一度生産を中止していましたが、1987年(昭和62年)、店の前面の道路拡幅工事によって曳家(建物を解体せずにそのまま移動すること)を余儀なくされ、築130年の復元・改修を行った際に記念として復刻。当時から落雁〈豊生〉のファンは多く、お客さんからの「ぜひ商品化してほしい」という声が後押しになったそう。
280年以上続く伝統、ゆかりの品々を受け継ぎ、日々積み重ねながら〈とまや〉の歴史と共に歩んできた佐和さんに、今後の展望についてうかがいました。
「小さい頃は店が遊び場で、高校生の頃から本格的に手伝うようになり、〈とまや〉と共に育ってきました。ここまで長く続けてこられたのは、今あるものを守り続けることを大切にしてきたからだと思っています。最近は急須でお茶を入れる習慣がない方も増えていて、普段忙しくておいしいお茶をゆっくり飲むということ自体が特別なことになってきていると感じます。だからこそ、『杵築の〈とまや〉に寄れば、いつでもおいしいお茶を飲める』と、訪れた人がほっとひと息つける、そんな安心できる場所になっていたらうれしいですね」
地元の人はもちろん初めて訪れた人も、まるでふるさとに帰ってきたかのような居心地の良さでついつい長居してしまうのは、常に先代の知恵を重んじ、伝統を受け継ぐお茶へのこだわり、おもてなしの心を第一に考えてきたから。そんな江戸時代から続く歴史と文化の継承こそ、お茶どころ杵築で〈とまや〉が長きにわたって愛される理由なのかもしれません。
*価格はすべて税込です。
credit text:大西マリコ photo:黒川ひろみ