盛りざるからかごバッグまで、
別府竹細工の日用品。
竹職人・大谷健一さん | Page 2
竹の強さもしなやかさも、引き出すのは「人の手」です
「竹は決して思いどおりにならないんです。人間と同じで、強制的に言うことを聞かせようとすると反発してくるんですね。そこを何とかなだめすかして、竹が行きたいと思う方向に行かせながらも、人間の思う形に持っていくのがおもしろいんです」
そう言いながら、ヒゴづくりを始めた大谷さん。手にしているのは「竹割包丁」。刃と持ち手の間に胴金(どうがね)という輪っかがついているのが特徴です。
「ほかの地域では竹を割るのに鉈(ナタ)を使いますが、別府では包丁を使う。竹を割るのも、皮を剥いで細くするのもこれだけなんですよ」
カリリリリッ、パリリリリッ。竹を割る音がこんなに爽快なものだなんて知らなかった! 胸のすくような気持ちのいい音が工房内に響き渡ります。竹の根本のほうに包丁を当てて割れ目をつくったら、そこへ刃物の厚みを押し込んでいくように割り進めるのですが……。
「実は“同じ幅で”“まっすぐに”割るのがすごく難しいんです。よく、まっすぐな性格を“竹を割ったような”と言いますけど、そんなことはまったくない。竹の繊維の力に負けないように加減しながら割らないと、まっすぐどころか、先がどんどん細くなってしまいます」
何等分かに割って細くしたら、次は竹の内側を剥いで皮と身に分ける工程です。実際に使うのは皮の表面の、薄さ0.5ミリくらいの部分だけ。包丁の胴金を当てて、均一に剥いでいくのがまたひと苦労。
「皮の表面だけを1回で薄く剥ぐことができればラクなんですけれどね。細かく複雑に繊維が入っているため、そういうわけにはいかないのが竹という素材。まず半分の薄さに剥ぎ、さらにその半分……と3回、4回に分けて仕事をしないと、きれいに薄くならないんです」
さっきはカリリリリッと大きな音を鳴らしていた竹ですが、大谷さんの手元で細くなるにつれ、その音もやさしく穏やかになっていく。工房内では大谷さん、一木さん、網中さんがそれぞれのペースで作業をしているため、割ったり剥いだりの異なる音が重なりあって合奏のよう。
地道な作業を繰り返して細く薄くしたヒゴを、さらに面取り(角を取る作業)したら、ようやく材料のできあがりです。「竹の仕事は8割がたがヒゴづくり。この工程が一番重要なんです」
こうして完成したヒゴでかごやざるを編むのですが、驚くのは簡単なガイドラインが引かれた下地紙以外、詳細なデザイン画も設計図もないこと。細かな模様編みも美しいカーブも、長年この仕事を続けてきた手と目の感覚によってつくられるのだとか。
「ある程度の厚みをもたせたまま曲げたいときは、少し厚くしておいたヒゴをこうやって剥ぐこともあります」と大谷さん。「こうやって」とは、剥いでバラバラにするのではなく、片方の端はつなげたまま2枚にスライスした状態にすること。こうすることで、曲げるときに外円と内円の間に隙間ができ、強さや厚みやどっしりした雰囲気はキープしつつ、しなやかな曲線を描けるのです。
「竹細工の強さもしなやかさも、人間がきちんとコントロールして初めて引き出せる。そこがおもしろいところであり、“何でもつくれるわけではない”理由です」