〈タオ・オーガニック・キッチン〉
豊後大野からおいしいオーガニック
食品を届ける、米澤陽子さん | Page 3
自給自足時代の経験を生かした体においしい食品づくり
大分での暮らしも年数を重ねていくと、陽子さん夫妻のイメージは「奇特な移住者」から「田舎暮らしのベテラン」へと変化し、同じ価値観を持った人々が近隣のエリアに移住してくるようになったそうです。
「移住当時はそういうコミュニティがなかなかなくて宇佐まで行って宴会してたんですよ(笑)。だけど、しばらくすると有機農業をやっている森岡さんたちがこっちに移住して来たりして、わざわざ宇佐まで行かなくてよくなりましたね」
自分自身と同じ信念を持って暮らす人々が増え始め「さぁこれから」というとき、陽子さんにとっての転機が訪れます。
「17年前に夫が亡くなって、働かないわけにもいかなくなったんです。ちょうどその頃、友人のパン屋さんがカフェを開くということもあって、立ち上げから約5年間、料理を担当していました」
カフェの仕事を離れたあと、地域づくりのNPOを立ち上げて活動したりもしましたが、「それだけでは暮らせない」と思った陽子さん。自給自足時代からつくっていた、体にやさしい食品を販売しようと決心し、〈タオ・オーガニック・キッチン〉をスタートさせました。
「カフェのときにつくっていたジンジャーシロップがおいしいと評判だったので、それをつくって売りたいなと思って始めました。自給自足の頃は野菜もいっぱいとれていたから、それをいろんな方法で食べるでしょう。だから加工方法にも詳しかったんですよね」
材料は身の回りの有機農家さんから買うため、ほとんどが大分県内の食材、酵素の材料は山の木々に芽吹く新芽や野草などを使っているそう。自然の豊かな場所だからこそ、素材は無尽蔵にあると陽子さんはうれしそうに言います。
「いまここでやっていることは都会ではできないこと。タケノコは邪魔になるほどたくさん生えてくるし、梅も近所の人が『いっぱいなったから、使わんかえ?』ってたくさん持ってきてくれたり、まちでは考えられないことですよね。素材の良さも含めて田舎ならではの仕事だなと思っています」
最後に、移住を考える若い人に伝えたいことはないかと聞いてみました。
「田舎はいいよって伝えたいですね。あと食の大事さ。基本、体にやさしいものは自然環境にもやさしいので、そういったものを意識的に選んでほしいなと思います」
取材のあと、私たちを見送るために工房の外へと出てきた陽子さん。周囲に植えた果樹や草花に向ける眼差しは愛おしさに溢れ、この土地に愛情を持って暮らしていることがこちら側にもしっかりと伝わってきました。
タオ・オーガニック・キッチン代表。石川県生まれ、福井県育ち。1991年、大分県豊後大野市に移住。2014年に〈タオ・オーガニック・キッチン〉をスタート。大分県をはじめ、九州産の有機栽培や無農薬栽培でつくられた安心安全な素材を使った加工品を製造販売している。
web:タオ・オーガニック・キッチン
*価格はすべて税込です。
credit text:川上靖代 photo:木寺紀雄