
杵築市山香の暮らしを感じる古民家宿
〈yamakaoru〉〈matai〉
野口奈々絵さん&泰秀さん | Page 3
宿では“当たり前じゃない”を楽しんでほしい
奈々絵さんに山香で暮らす魅力を尋ねると、「ねむの木にピンクの花が咲いたら大豆の種まき」「春分にジャガイモを植えるといい」など、自然が教えてくれる暦と季節ごとの段取りが人々の暮らしの背骨にしっかりとあることだと言います。
「ここへ来た頃は、何をするにも知らないことばかりで、周りの人たちに追いつくのに精一杯でした。数年たったいまは、自分自身にもきちんとリズムとして浸透してきた気がします」
この手仕事の頃合いとリズム感は、自然豊かな場所で日々を重ねてこそ身につくもの。奈々絵さんにとって大きな財産となりました。

さらに、季節のリズムに合わせて手を動かすうちに、暮らしの道具そのものを自分の手でつくり出したいと思うようになった奈々絵さん。そのときに偶然出合った素材が、国東半島特産の七島藺(しちとうい)です。週に1度開かれる教室に通って技法を学び、円座やしめ飾りをつくれるまでになりました。





そしてこの夏、yamakaoruから少し離れた場所に、集落名から名をもらった一棟貸しの宿〈matai〉が新オープン。ここでは食事やお風呂の準備と片づけ、部屋の温度調整に至るまで、すべてがセルフサービスとなっています。




「山香で暮らしてみると、もちろん不便や大変さもあるんですけど、意外とそれが嫌じゃないくらい、ここでの暮らしが好きになりました」


「私たちが大事にしているのは、用意された快適さより自分で手を動かすこと。寒いなと思ったら自分で薪ストーブに火をつけて、足りなければ木をくべる。そんな当たり前じゃない過ごし方を楽しんでほしい。おもてなしされるだけでは気づけないことを、ここで体験してもらえたらうれしいです」

田舎らしい不便さは欠点ではなく、滞在の思い出を色濃くするエッセンスのようなもの。
観光地の華やかさや便利さがないからこそ、山香の自然がくっきりと立ち上がり、季節の香りとともに味わえるのかもしれません。


栃木県生まれ。2019年、地域おこし協力隊として東京都から大分県杵築市へ移住。現在は山香町の築150年の古民家で家族と暮らしながら、〈yamakaoru〉と〈matai〉の2軒の宿を営む。国東半島に伝わる七島藺(しちとうい)の編組技法を学び、雑貨などの制作も手がけている。
*価格はすべて税込です。
credit text:川上靖代 photo:木寺紀雄