一棟貸しの宿〈matai〉のリビングから見える田園風景
連載|あの人に会いたい!

杵築市山香の暮らしを感じる古民家宿
〈yamakaoru〉〈matai〉
野口奈々絵さん&泰秀さん | Page 3

Posted 2025.08.29
Instagram X Facebook

宿では“当たり前じゃない”を楽しんでほしい

奈々絵さんに山香で暮らす魅力を尋ねると、「ねむの木にピンクの花が咲いたら大豆の種まき」「春分にジャガイモを植えるといい」など、自然が教えてくれる暦と季節ごとの段取りが人々の暮らしの背骨にしっかりとあることだと言います。

「ここへ来た頃は、何をするにも知らないことばかりで、周りの人たちに追いつくのに精一杯でした。数年たったいまは、自分自身にもきちんとリズムとして浸透してきた気がします」

この手仕事の頃合いとリズム感は、自然豊かな場所で日々を重ねてこそ身につくもの。奈々絵さんにとって大きな財産となりました。

七島藺(しちとうい)でつくられたコースターとグラス

さらに、季節のリズムに合わせて手を動かすうちに、暮らしの道具そのものを自分の手でつくり出したいと思うようになった奈々絵さん。そのときに偶然出合った素材が、国東半島特産の七島藺(しちとうい)です。週に1度開かれる教室に通って技法を学び、円座やしめ飾りをつくれるまでになりました。

束になった七島藺(しちとうい)
現在は国東半島の数軒の農家でしか栽培されていない七島藺。畳などに使われるほか、暮らしの道具などの工芸品に。こちらの記事でも詳しく紹介しています→国東だけで育つ「七島藺」の鍋敷き。七島藺工芸作家・岩切千佳さん
七島藺を捻っている奈々絵さん
実は東京在住の頃、藁雑貨を編んでそれを「谷根千(谷中・根津・千駄木)」エリアのマルシェで販売していたという奈々絵さん。七島藺の扱いにもそれほどハードルを感じなかったのかもしれません。
捻って1本になった七島藺
数本を捻って1本に。これを丁寧に編んでいきます。
七島藺でつくられた鍋敷き、コースター、円座
奈々絵さんがつくった鍋敷き、コースター、円座など。
七島藺でつくられた網でにんにくが吊るされている
暮らしにも、七島藺でつくられた道具がなじんでいます。

そしてこの夏、yamakaoruから少し離れた場所に、集落名から名をもらった一棟貸しの宿〈matai〉が新オープン。ここでは食事やお風呂の準備と片づけ、部屋の温度調整に至るまで、すべてがセルフサービスとなっています。

一棟貸しの宿〈matai〉の外観
「又井」という集落の名前からその名をとった〈matai〉。
アーチ状になった〈matai〉の廊下
野口さん一家の暮らしの営みを感じるyamakaoruとはまた違う空気で、田舎の静けさを深く満喫することができます。
ダイニングテーブルとソファ、薪ストーブが配されたリビングルーム
この家も泰秀さんと奈々絵さんでリノベーション。薪ストーブのある広めのリビング。
大きな全面窓の先に広がる田んぼの風景
カーテンを開けると窓一面に田んぼの景色が広がります。

「山香で暮らしてみると、もちろん不便や大変さもあるんですけど、意外とそれが嫌じゃないくらい、ここでの暮らしが好きになりました」

作業スペースの広いキッチン
キッチンも快適。
〈matai〉のベッドルーム
ベッドルームはふた部屋(ベッド数は5)。

「私たちが大事にしているのは、用意された快適さより自分で手を動かすこと。寒いなと思ったら自分で薪ストーブに火をつけて、足りなければ木をくべる。そんな当たり前じゃない過ごし方を楽しんでほしい。おもてなしされるだけでは気づけないことを、ここで体験してもらえたらうれしいです」

キッチンへの入口

田舎らしい不便さは欠点ではなく、滞在の思い出を色濃くするエッセンスのようなもの。
観光地の華やかさや便利さがないからこそ、山香の自然がくっきりと立ち上がり、季節の香りとともに味わえるのかもしれません。

みんな笑顔の奈々絵さん、泰秀さんと2人のお子さん
Profile 野口 奈々絵

栃木県生まれ。2019年、地域おこし協力隊として東京都から大分県杵築市へ移住。現在は山香町の築150年の古民家で家族と暮らしながら、〈yamakaoru〉と〈matai〉の2軒の宿を営む。国東半島に伝わる七島藺(しちとうい)の編組技法を学び、雑貨などの制作も手がけている。

Information
yamakaoru
address:大分県杵築市山香町野原2615-1
料金:1泊朝食付き1名12100円~
Instagram:@yama.kaoru
Information
matai
address:大分県杵築市山香町倉成2860
料金:施設料10000円+1泊1名13000円~
Instagram:@ma_ta_i_

*価格はすべて税込です。

credit text:川上靖代 photo:木寺紀雄

この記事をPost&Share
X Facebook