見晴らしのいい牧草地で2頭の白い馬が草を食べている
連載|あの人に会いたい!

オルタナティブスクール〈YURERU〉で
馬を中心とした暮らし型セラピーを実践。
小笠原じゅんこさん | Page 3

Posted 2026.09.11
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ありのままの自分を求め、東京から竹田へ

実は、小笠原さんは元オリンピック競泳選手。大学卒業後は、東京の大手飲料メーカーで営業職として、“バリバリ”に働いていました。そんな経歴もさらりと手放し、生まれ育った東京を離れ、竹田市に移住します。

それは会社員時代の出張で大分県を訪れたことがきっかけでした。食べもののおいしさに感動し、仕事終わりに少し足を延ばした竹田で触れた自然の豊かさに魅了されたのだといいます。

2頭の馬が牧草を食べている様子

その頃の小笠原さんは、フルタイムで働きながら、当時4歳と2歳のふたりの子どもの子育てに格闘していました。「やりがいがあって、とても楽しい」と実感する一方で、「毎日、朝から夜中まで必死! 死に物狂いだった」と振り返ります。

「会社を出てから保育園まで、一歩も歩かないで走って帰るんです。ヒールを履いて、パソコンが入った荷物も持って」

家に着いてからも、夕食をつくりながら、キッチンのカウンターでメールを返信。子どもたちを寝かしつけたあとも、夜中まで仕事をしていたそう。

そんなときにふと、「あれ? 何のために仕事をしているんだっけ?」という思いが頭をよぎり、「会社員として生きることしか考えられなかった」という小笠原さんの心に、「何のために?」という疑問が広がっていきます。

「どこからか降ってきたみたいに、『辞めちゃったらいいんじゃない?』と思った瞬間に、『会社を辞めたら自由になる。東京にいる必要もないし、どこにでも行けるじゃん!』って、考え方が変わったんです」

興味津々でカメラに顔を向けた馬

「サラリーマン時代はめちゃくちゃ楽しくて、夢中になって仕事をしていました。勤めていた12年間、1度も辞めたいと思うことはなかったくらい、本当にいい会社だったんです。でもいま、会社を辞めたことを後悔する日は1日もなくて。本当に大分に来てよかったなと思っています」

ハードな営業職や、東京で働きながらの育児も経験した小笠原さんがいま考えているのは、子どもたちだけでなく、大人のためのセラピー。何らかの事情で会社に行くことができなくなってしまったり、社会とのつながりが持てなくなってしまった大人も受け入れられるようにしたいと構想しています。

そのほかにも、障がいのある子どもを持つ親たちにも、心に傷を抱えた子どもとの関わりで悩む家族にも、「世の中にはこのような場所があることを伝えていきたい」と考えているそうです。「もっと私たちの存在を知ってほしい」とも。

馬が鼻で寝そべる猫をつっついている

最近では、オルタナティブスクールで過ごす日々を「出席扱いにする」という学校も増えています。プログラムをメールや電話で確認するだけではなく、遠方から校長先生が訪れ、実際に子どもたちが生活する様子を見て、「こんなに違う表情になって活動していることに、本当に驚いた」と、出席扱いを認めた学校もあったそうです。

乗馬体験中の子どもと、並んで歩きながら見守る小笠原さん
小さい子どもたちも、大人も、変わらず受け入れてくれる馬たち。「発達障がいも含む障がいのある子どもたちのセラピーにも取り組んでいきたい」

子どもから大人まで受け入れの幅を増やし、牧場運営だけでなく、大分の美しい地を守ることにつながるような放牧地も広げ、地域農業にも積極的に取り組んでいる小笠原さん。

毎日、朝から晩まで忙しい日々は東京にいた頃と変わらないのかもしれません。しかしここでは、次の予定に縛られて走るのではなく、暮らしを整えてくれる馬たちと一緒に歩く生活。人間も馬たちものびのびと過ごせる、豊かな自然もすぐそこに広がっています。

牧草地でのインタビュー中に笑顔を見せる小笠原さん
子どもの頃「ムツゴロウ王国をつくることが夢だった」という小笠原さん。水泳や仕事に夢中になった日々を経て、いま幼い頃の夢の暮らしを実現させています。

これからも馬と子どもたちとともに、汗をかきながら、楽しく。今日も、“暮らし”そのものがセラピーになる日々を過ごしています。

Profile 小笠原じゅんこ

東京都出身。2000年、シドニー五輪に競泳平泳ぎ選手として出場。大学卒業後は、大手飲料メーカーに就職。2016年に退職し、大分県竹田市に移住。地域おこし協力隊として子育て支援などに携わったのち、2020年〈一般社団法人ゆれる〉、2021年〈株式会社YURERU〉を設立。20頭の馬、犬、猫、ヤギなど動物たちと暮らしながら、馬を中心とした暮らし型のセラピーを実践するオルタナティブスクールや放課後等デイサービスを運営している。

credit text:河野恵 photo:木寺紀雄

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